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XVIII 好きになった理由は


「ありがとうシグルド。ルティリアのこと、なんと言っていいか」

 空に晴れた光が差し込み、誰もいなくなったころ。私はシグルドに頭を下げた。本当に一人ではどうにもならなかった。感謝しても仕切れない。

 一方でシグルドの表情は晴れない。真剣な眼差しで、私の顔を真っ直ぐに見ている。

「…………それで。お前、何か俺に報告するべきことがあるんじゃないか?」

「…………。」

 先程シグルドはルティリアのことを間違いなくロズウェルの血を引く者――と言った。

(……もう、知っているのだな)

 しかし、きっとシドルファスとルティリアが自分の子供であると知ったならば、この義理堅い男は私と結婚してまで責任を取るとかなんとか言いかねない。

(それは……本当に嫌だな)

 あの魔工子宮研究所での事故がなければ彼には違う選択肢があったはずなのだ。それを既に私のために曲げてしまっている。これまでのアレコレは妙な場面に立ち会った義務感や責任感故だっただろうが、血が繋がった子供がいるとなると、もっと極端な行動に出るだろう。

(親愛の気持ちは嬉しいが、こういったものは本当であればシグルドが告白しようとしていた彼女に向けるべきものだ)

 シグルドは黙り込む私に静かに圧をかける。

「言えよ」

「言えるわけがない」

「つまり俺は用済み。そう言いたいんだな」

 そういう訳ではない。しかし、何と返したらいいのか分からずに私は俯く。

 私達は気まずい雰囲気のまま下山することとなった。

(シグルドのことは好きだけれど、その感情だけで動けるほどもう子供ではない)

 子供が産まれてわかった。家族というのは結構大変なのだ。例えば今後彼が他の誰かと結婚して、子供が出来た場合、シドルファスとルティリアのことを認知するかしないかで生活や財産や立場が大きく変わってしまうだろう。

 彼に本当のことを告げて、子供が出来てしまった事実を確定させてしまうことは重荷を背負わせることだ。

 他でもない彼の将来のために二人がシグルドの子供だとは絶対に認めてはならない。アルベルトと話した後に私なりに出したひとまずの結論はこうであった。

(もう二人を父親に合わせることが出来たから。それだけで満足しなければ)

「……っ」

 ブーツに違和感を感じて座り込む。聖獣(シシー様)が居なくなってしまったので私達は徒歩で山道を降りていた。シグルドは無言で少し先を歩き続けていたのに、私の異変に気が付いて戻ってくる。

「大丈夫か!?」

「……問題ない」

(何がラッキーアイテムだ)

 次にアルベルトに会ったときには締め上げてやる。どうやらブーツが急に合わなくなって足を挫いてしまったらしい。

(情けない)

 これでも一人で魔獣を狩れるほどの体力があるのに、こんな町娘のような失態をおかすなんて考えられなかった。

「しょうがないな」

 シグルドは私を背中に導く。これは俗にいう「おんぶ」というやつだ。シグルドの一つに束ねてある黒い髪が目の前に見えた。

(あたたかい……)

 シグルドの背はすこぶる快適であった。

(なんだか魔力譲渡をしてくれていたときを思い出すな)

 シグルドの家に泊まって、手を合わせながらなんでもない会話をする。あのときは幸せだった。

 『リノンさんの気持ちや考えは伝えたほうがいいですよ』

 アルベルトの言葉を思い出す。

(何も話さないのはこんな辺境まで来てくれたシグルドに対して失礼だ)

 今なら少しだけ気持ちを話せそうな気がした。

 ポツリ、ポツリと言葉を紡いでいく。

「私は……ゾクレイの家に産まれながらも、家の務めである知性を活かせないことに酷く劣等感を抱いていた。ゾクレイ家では赤子の頃より父親から課題と称して知力を試す問題が配られる。私の成績はいつも奮わなくて、馬鹿だと言われ続けた。異母姉や異母兄がその知を認められて仕事を与えられる中、私だけが親戚の家へと厄介払いされたのだ」

 自分は周囲から求められたことができない存在であるという事実が私を酷く落ち込ませたのは言うまでもない。

「私は何か一つでも役に立つことがないかを探した。たまたま、魔術と武術に適性があることがわかったんだ。けれど、知っての通り魔騎士の世界は男ばかりだ。皆、私が女であることを知ると女の癖にと罵るようになった」

 私が大きめのローブを買い、認識阻害の魔法を掛けるようになったのもこの頃だ。目立たないように過ごし、普通に居る男のように振る舞った。

「お腹の子の父親から武術を褒めて貰ったとき、初めて世界から認めて貰った気がしたんだ」

 シグルドはそこで、初めて何かを言いたそうにした。けれど、何も言葉をはさまないことにしたらしい。続きを促すように私をチラと一瞬見た。

「私にとってその行為が尊く、嬉しいものであったか、君にわからなくても問題ない。私は尊敬する相手の子供を得られただけでもう十分過ぎる程に幸福なのだ。これ以上は望まない。彼には王都で輝かしい未来があり、愛する人が居るはずだ。彼の責任ではなく事故で出来てしまった子供を認めることで、彼の未来を邪魔することを私は望まない」

(言えた……)

 私はみっともなく縋ったりせずにきちんと突き放すことが出来た。後はこのまま大人しくシグルドが帰るだけだ。

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