XVII この子達の父親は
(なんなんだこのブーツ)
私はアルベルトからもらった靴を履くと不思議な履き心地がした。教えたこともないのに足にピッタリと合うサイズで、程よい圧着感だ。
「ママ、聖獣はここ?」
「あぁ」
シドルファスの小さなドラゴンを部屋の隅に祀る。このドラゴンは子供が生まれたときにやってきた手のひらサイズの小さな龍だ。
(他の人に聖獣を見せる訳にはいかない)
この辺境の村では聖獣はそこまで見慣れた存在ではない。王都では敬いの対象の相手だが、この辺境では隠れていただいている。
(もっとも、今後は変わるかもしれないがな)
私はその後シドルファスがお昼寝したのを確認すると、昼下がりにやってきた来訪者と対峙する。
「おい……リノン。俺は散々父親について聞いたよな」
「そうだな」
「まだ教える気はないか?」
「ない」
「……その相手のことをどう思っている」
「今も変わらず愛しているよ」
これだけは二年前から変わらない。愛の形はもう共に居たいではないかもしれないが、愛おしいと思う気持ち自体は変わらない。
「……もう一人の子供が見たい」
おくるみに包まれたままのルティリアをシグルドに見せると、シグルドは大切なものを抱えるようにルティアを抱きしめた。
(嬉しいな)
ルティリアもシドルファスも間違いなく彼の子供なのだ。そう思うと胸が弾んだ。
シグルドは外に出て聖獣にルティリアを見せると、私を呼ぶ。
「少し出るぞ」
*
「どこまで行くんだ?」
「山頂」
リリお姉様にシドルファスを預けると、私達は近隣の山を登る。南国とはいえ山は標高が高いからか寒さすら感じる。途中まで聖獣様の背に乗せてもらったが、風でおくるみにくるまったままのルティリアを落とさないようにするのに一生懸命だった。
(一体何故、このようなことを)
山頂に着くと山の上は曇天だった。
「!」
見たこともないような沢山の聖獣が集まっている。大きいものから、小さいものまで様々だ。ルティリアがふわりと浮いて、聖獣達の輪の中央に進んでいく。聖獣達は何か鳴き声を出しながらやり取りをしていた。
「これは……一体……」
「ロズウェルの血を持つものは産まれてすぐに聖獣に出逢う。出逢わせないと、ダメなんだ。きっと眠ってしまっているのは身体の防衛反応だと思う」
「……!」
光と共に一匹の小さな聖獣がルティリアの手に触れた。すると、ルティリアのずっと閉じられていた目が開いていく。赤い目に雪の結晶のような紋様――シグルドと同じ目だ。瞬きをしながら手を伸ばしたりと動き始めた。
「ルティリア!」
私は思わず聖獣からルティリアを引き取ると抱きしめた。この二年間、どれだけ心配したかわからない。
(死んでしまうかと思っていたから)
シドルファスは大きくなっていくのに、ルティリアは生まれたままの姿から変わらない。何をしても目覚めなかったのはずっと不安だった。何か取り返しのつかない間違いをしてしまったのではないかといつも後悔していた。
「? 手に何か握ってるぞ」
シグルドはルティリアの小さな手から何かブローチのようなものを取り出す。魔道具らしく、中身を改めるとバチリと紫の光が出て、村の方に飛んでいった。中のデータを見ると、魔工子宮研究所での出来事が事細かに記されていた。
「これはリリお姉様が書いた研究所の不正の証拠……!」
これをアルベルトに渡せばゾクレイ家は少しはまともになるかもしれない。
聖獣達は再びルティリアを囲いはじめる。シグルドの話によるとルティリアは聖獣達の住処で暫く療養する必要があるとのことだった。私はルティリアを聖獣達に預けることにした。
「聖獣、よろしくな」
空の高いところまで聖獣達が羽ばたいていくのを、私たちはずっと見送っていた。




