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XVI 【リノン視点】ラッキーアイテム


【リノン視点】


「やっぱり僕、ここに居るのはリノンさんだと思ってました。僕、リノンさんのお陰で『春節の儀』で活躍したんですよ。恩を返す部下、どうですか? 感動的でしょう?」

「……アルベルト」

 シグルドとアルベルトがトンデンス村にやって来て二日目。今日は朝からアルベルトがお茶を飲みにやって来ていた。子供達はアルベルトの来客を見てリリお姉様が散歩に連れ出している。仕事は良いのかと問うと、どうせ僕達は左遷組なのでと笑われた。

(違うな)

 アルベルトに関しては何故ここに飛ばされたかの理由は異なるはずだ。

「アルベルト。お前は王都の裏の者だ。ゾクレイ家を調べている。私の部隊に居たのは私がゾクレイ家と繋がりがあるという出自を知っていたから。この村に住んで居る”彼女”とやらはこの平定したばかりのこの村が再び王国に叛旗を翻さないか監視する協力者。『春節の儀』で思ったよりも顔が広まってしまったから他の人員と交代させられる。そうだろう」

 アルベルトはニッコリと笑って「わぁ、その設定かっこいいですね!」と言った。

(この仮定が本当だとしても認めるはずはない、か)

 『春節の儀』の練習のときの技のキレや身体の使い方など、本当はできる奴なのではという疑問をずっと抱いていたのだ。

「僕はそんなつまらないことよりもリノンさんがシグルドさんをどうするのかが気になります」

「どうするとは?」

「だってぇ、あの人仕事投げ出してリノンさんの事故死について調べてたんですよ。安泰にしてれば王都でぬくぬく暮らせたのに。これって愛ですよねぇ」

 二本の指で器用にハートを作ったアルベルトは、不器用にウィンクをしてみせた。

「…………。」

「僕はねぇ、瞳の色とか髪の色とかよりも鼻の形とか耳の形に面影を感じるんですよ。並んだらきっと、もっとわかりますよ」

「…………。」

「僕だったら嫌だなぁ。教えてもらえないなんて」

 きっとアルベルトは全て知っているのだ。シグルドが来てしまった以上、完全に隠し通せる可能性は低い。

(シグルドに知って欲しい。でも、知られたくない)

 私はこの二年間、心の中ではずっとシグルドに来て欲しかった。会いたかった。だから聖獣様の名前も借りたし、シグルドがよく着ていた黒いローブを纏うようになった。けれど、だからと言って子供達を理由にして彼にこの村で私と一緒に骨を埋めるような選択をさせたくない。王都に帰れば死んだことになっているような惨めな女に私の想い人は相応しくないのだ。

 黙り込んでしまった私にアルベルトは助け舟を出す。

「考えれば考えるほど人の心って矛盾しますよね。欲望は必ずしも一つの方向には向かわないのですから」

「答えを出せない私を愚かだと思うか?」

 アルベルトは静かに首を振る。

 そして「でも、何かしら気持ちは教えてほしいですね」と付け足した。リノンさんは何を考えているのかわかりにくい。本当にわかりにくいからと。

「リノンさんは最近まで敵国だった地域の出身の僕に普通に接してくれましたけど、これには抵抗なかったんですか?」

「アルベルトは部下だったから。部下の面倒をみるのは当然だ」

 アルベルトは繰り返しその話をするが、わたしには大したことをした記憶はない。

「あぁ、リノンさんは関係性をリボンで固く結んであげないといけないタイプの人なんですね」

 アルベルトは荷物の中から女性ものの新品の靴を取り出して机の上に置いた。

「これ、トンデンス村に伝わる有り難いブーツなんです。今日はこれがラッキーアイテム。是非履いてくださいね」


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