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XV ちょ、言えよ!


(パパじゃない、か)

 帰り道、すっかり暗くなった道で俺は小さな棘に苛まれるようにその言葉を思い出していた。リノンには新しい家族が出来て、もう新しい生活を始めている。リノンが生きていたことは本当に嬉しいが、リノンにとってもう俺は必要ないことも再確認した。

(だが、俺はリノンのことを諦められるだろうか)

 今、リノンに恋愛的な感情で迫るのは違う気がした。目覚めない子供、少し壊れかけてしまった姉。新しい環境での仕事とリノンには余裕がない。

(まずは地道にこのトンデンス村で信頼を得て、それから無害な近所のおじさんになろう)

 もう死んだと思っていた相手だ。アルベルトはこの村に飛ばされてなお魔工子宮プロジェクトについて調査を続ける気でいたが、俺はリノンが無事ならそれで良い。それで良いはず、だ。

(結局、リノンの好きな相手って誰だったんだよ。それに、あの花を切った意味は)

 肝心なことも聞けないままで。

「おじさん、これ、はやく」

 俺がトボトボと歩いていると、俺の服を引っ張る小さな手があった。水色の髪。リノンの息子だ。こんなに暗いのに一人で俺を追いかけて来たらしい。なんて危ないことをするんだ。

 小さな手で俺の手に二つの小さな瓶を置く。手に取って説明文を読むと手作りの魔術目薬らしい。

「目薬……?」

「かくさないと ねらわれるよ」

 頭に?マークの浮かぶ俺に、リノンの息子は実践して見せてくれることにしたらしい。俺の手から瓶を一つ取ると、リノンと同じ水色の瞳の両方に薬をかける。

「ほら」

 瞬きをするたびに二つの瞳の色が変わっていく。俺と同じ血のような赤い目。そして、雪の結晶のような紋様が浮かび上がる。

 その目は俺の一族しか持っていない。強いていうなら俺のロズウェルの家の直系にしか現れない特徴である。

(これ……は……)

 つまりリノンの子供の父親は俺か兄さんしかありえない。

 しかし、兄さんは俺より十歳上で長く隣国で仕事中だ。

 つまり。

 つまり。

 つまりつまり。

 俺しかありえない。

 とすれば、俺。父親は俺。この子、俺の子じゃないか。

「…………リノンの奴……!」

 そういえば魔工子宮プロジェクトで遺伝子サンプルの瓶を提供したことがあった。その後、不慮の事故がありサンプルは破損して存在しないと研究員から聞いていたが、確かにその不慮の事故で勝手に子供が出来たとしてもあの研究所なら隠蔽するだろう。

(もし、俺が本当にリノンの子供達の父親であるならば)

 そう考えるとリノンのおかしかった言動が紐付いてくる。

「結婚はしないし相手にも子供が出来たことは伝えない」は、確かに俺とは結婚していないし、俺の子供が出来たことは伝えられていない。リノンが倒れときもそうだ。俺が子供の父親がリノンを助けないのは誠実でないという話をしたときに、リノンが充分に誠実だと言ったのは、助けたのが子供の父親()だったからではないだろうか。

 嘘は付いていないが、嘘をついていないというだけで何一つ情報伝達としては正確ではない。

(いや、言えよ)

 一つ屋根の下で暮らしていたこともあるのに、子供が出来たことを知らされないというのはもう本当にどうかしている。そこにどんな事情があるにせよ、だ。

(なんで好きな女がもう俺の子供とか産んでるんだよ。普通、順序が逆だろ。それに……いや、待てよ。となるとあの発言は)

 子供の父親のことを「愛している」というのは、つまり、俺のことで。

(リノンは、俺のことが好き? アイシテルって俺のことを??)

「ちょ、言えよ!」

 思わず口から出た言葉と長いフリーズにリノンの子供は俺のことを心配そうに見上げている。

「なに……どうしたの」

(いや、リノンだけの子供じゃない)

 自分の子供だと思えば、興味関心度合いがまた変わってくる。大丈夫だ、と安心させて俺は聞き込みを開始する。

「そういえば名前、聞いてなかったな」

「ぼく、シドルファス」

「そうか。良い名前だな。妹は?」

「ルティリア」

(俺の名前が若干入っているな)

 完全にクロだ。王都の最近の名付けの流行りは親の文字の一部を入れることだと聞いたことがある。となると。

「この髪……本当の色は?」

「くろ!」

「そうだと思った」

「ママがすきなひとと いっしょの いろ」

「そうか、ママから聞いたのか」

「うん!」

(リノンお前本当にそれどういうつもりなんだ)

 シドルファスが俺のことをパパだと思ったのは自分と同じ髪の色と瞳をしていたからだ。それに、多分そのママのすきなひとは9割くらいの確率で俺である。

(なんで俺リノンから好かれてるらしいのに子供が出来たことまで隠されてんの? 戦力にはならないとか思われてんの? 何。もうマジで何なの)

 俺はシドルファスをリノンの家に帰して、帰路についた。息子を心配して探し回っていたリノンをどんな顔で見ていいかわからなかった。

「……ちゃんと捕まえないとな」

 俺が呟いた言葉を聖獣(シシー)はよく理解してくれたらしい。

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