XIV パパじゃない
「待て。待て待て待て。お前生きてたのか!!」
「足は付いている。見るか?」
リノンは黒いローブの下をめくろうとする。俺は慌ててその手をとめた。
「こんなときに冗談はよせ!」
この独特な感じ、本物のリノン=ハートレットだった。俺は思わずリノンを抱きしめる。
「リノン……生きててくれて…………ありがとう」
「……シグルド」
リノンはきちんと温かくて、生きていた。それとなく視線をやって手を見ると妊娠紋はない。
(無理だったのか)
リノンがどうやってか生き延びていたとしても、子供までは無事では済まなかった可能性が高い。俺と居た頃でさえキツそうだったので一人では必要な魔力を賄えなかったに違いない。
しかし、俺の考えは奥の扉からやって来た小さな子供に阻まれた。
「ママ!」
てとてとと歩く小さな男の子はリノンと同じ水色の髪に水色の瞳をしていた。
*
「紹介しよう。私の息子だ。この子はシグルドのお陰で無事に産まれたと言っても過言ではない」
リノンは小さな男の子の頭を撫でた。その子を後ろから抱き上げるのは、無表情をした小さな背の女。俺は彼女に見覚えがあった。
「…………こんにち、は」
「あんたは研究所の!」
「私の姉、リリお姉様だ。母親は違うけれどな。今は記憶や感情を少し失っている。おおかた、王都から離れると諸々欠けてしまう魔術をかけられていたのだろう」
確かに研究所で会ったときよりもリリは動きが緩慢であった。視線もどこか危うい。リノンは挨拶ぐらいはできるがその先は難しい、と説明してくれた。今は村で子守をしながら薬を作っているらしい。
「リリお姉様は私が遠くない未来、殺されることを知っていた。だから魂のない私の身体を創り出して殺したんだ。私達は一族の目が届かない村へと逃げてきた。お姉様は一族の過ちを告発するつもりだったらしいが、見ての通りだ」
「そうだったのか」
「何も言えなくてすまない」
「いや……」
リノンはリノンで大変だったのだ。いまさら連絡して欲しかっただのなんだのとゴネるつもりはない。
(きっと俺と離れてからは姉から魔力供給をしてもらっていたのだな)
姉とは少しでも血が繋がっているのならばそこまで拒否反応は出ないのかもしれない。俺は聞きにくいことを聞くことにした。
「もう一人は?」
「もう一人は……産まれてからずっと眠っている。赤子の姿のまま」
「そうか……」
原因がわからないため、リノンはこの村の防衛をしながら資金を貯めつつ、調査をしているらしい。幸い、命に別状はないそうだ。ちなみに隠匿先をトンデンス村に選んだのはアルベルトの与太話がきっかけだったと言う。
俺はリノンの近況を聞きながら、暫くゆったりとした時間を過ごした。
会話の中であったリノンと息子のやりとりが忘れられない。
「パパ」
「パパじゃない。ママの恩人。ママが尊敬している、お世話になった人だ」




