XII リノンの槍
あれからもう数ヶ月が経っていた。
*
「こんにちは〜! シグルド隊長のお家はここですか〜! あなたの新しい有能な部下、アルベルトがやって来ました」
俺はドアを鬼叩きする男の手を捻ってやめさせた。コイツはリノンのところに前居た奴だが、『春節の儀』が終わり春からの異動で俺の元にやって来た。
「…………何の用だ」
「わぁ、酷い顔! いつも思いますけど、このメンタルで『春節の儀』を完璧にこなしたの凄いですよね」
俺はあのとき、リノンの死体――リノンだったものを見た。魔導電車に巻き込まれて無惨に散った肉片、血溜まり、髪の毛。戦場で死体なんて見慣れたはずだったのに吐いた。現場に残った血も魔力も完全にリノンだった。いつも着ている白いローブを丁寧にこの家で手入れしていたのを覚えている。間違いなくあのローブだ。
小さい葬儀にも参加した。リノンを慕う人は多かったが、最期が最期だっただけにひっそりと隠されるように葬儀は開かれた。共に死んでいた研究員が男だったことも影響されただろう。リノンの性別を知る参加者の誰かが痴情のもつれではないかと呟いて、俺は拳を握りしめたのを思い出す。
「あっ、これ、リノンさんの形見を渡しに来ました」
アルベルトは俺に槍を差し出す。これはかつてリノンが持っていたもので、『春節の儀』のときにアルベルトが使っていたものだ。
「リノンさんも貴方に持ってもらったほうが嬉しいでしょうから」
「…………。」
「どうしました?」
「もういいんだ。リノンとは確かに短期間で一緒に暮らしていた。だが、死ぬ前リノンは俺のところから去っていった。それが答えだろ」
リノンからの手紙も読んだ。当たり障りのない感謝の言葉だけが書かれていた。結局、リノンは事故があってもなくても俺のところからは去るつもりだったのだ。
(あの男の研究員がリノンの子供の父親だったのかはわからない。だが、きっと俺のせいでリノンは死ぬことになったのは変わらない)
俺が槍を受け取らないのを見ると、アルベルトは勝手に家に上がり込み、紅茶を淹れ出す。
「貴方にはガッカリです。あんな不自然な死に方、リノンさんは殺されたかもしれないのに。リノンさんは狙われていることがわかっていたから身辺の整理も……うっ。うわぁあああリノンさん、王都で身寄りのない部下を置いていくなんて」
「大の大人が人の家で号泣するなよ。しかも泣く理由が酷い」
リノンが身の危険を感じていたとすれば、やはりそのことを共有してくれなかったことに憤りを感じる。勿論、頼られなかった自分に対して、だ。
紅茶を飲み干したアルベルトは聖獣にちょっかいをかけたり、部屋を物色していたりして落ち着きがない。
「わっ、これ恋の花じゃないですか。王都の人ってこれで告白するって聞きました〜」
「……。」
リノンが死んでも尚、この花を捨てられないでいた。一年は長持ちする魔法を掛けていたので、未だしおれないで居るはずだ。
アルベルトは枝分かれした茎の切れた断面を見せて来た。
「なんでココ切ったんですか?」
「……!」
買ったときにこんなものはなかった。俺は切っていない。王都の人間であればこの花の曰くは知っているはずだ。わざわざこの家を出る前にこれを切ったということは。
「リノン……」
感情がぐちゃぐちゃになる。
アルベルトは黙り込む俺にある提案をした。
「ね、隊長。一緒にリノンさんの死、調べましょうよ」




