第五話 禁止事項
「おかしい、そんな理由でついてきたの?」
弱い雨が降り続くなか、二人は傘を差さず公園前で対面していた。
一通り笑った三つ編みの少女は、今朝より緩んだ瞳を向ける。
丸メガネに雨が散る。黒髪の上に雨が乗る。セーラー服に雨露が溜まる。
ノアも同じ、濃紺のブレザーが濡れてしまう。くびれのある巻き髪が少しずつほどけてしまう。
気にしている余裕がなく、ノアは躊躇い気味に頷く。嘘は言っていない、ただ答えようがないために目を泳がせた。
数分前の危機を脱したことによる、安心と落ち着きに、ハッと口を開く。
「あのっ、タバコ、体に毒だよっ」
少女はチラッと辺りを見回したあと、冷たく我関せずの表情に戻っていく。
「ニコチン、ホルムアルデヒド、ベンゼン、それからアセトアルデヒド」
「は、い?」
口頭で並べられた横文字に、ノアは混乱してしまう。
「紙巻きタバコより安全って言われてるけれど、加熱式タバコも結局健康に良くないわ。電子タバコはニコチン無しなら法律が絡む心配はない、でも物足りない」
「そもそも、み、未成年なのに、見つかったら――」
「二十歳未満喫煙禁止法で罰せられるのは親権者と監督者、それから販売者。制止しなかった親や監督者には科料、未成年と知りながら売れば50万円以下の罰金が科される」
淡々と暗記を述べる少女に圧倒され、思考がまとまらない。
「けど、法律で罰せられなくても、学校の内申や成績に影響及ぼすし、私が通ってる学校なら即自主退学を迫られる。人生がガラリと変わってしまうかもね、ふふふっ、あはっははっ」
再び緩んだ少女の眩しい笑顔は、まるで「なんてことない」と言っているようだった。
その剛胆さに、ノアは弱く笑った。




