第四十二話 予想通りの問い詰め
早速。ミクは文字いっぱいの手帳をめくりながら、想定内を笑む。
二年生の教室で、黒松ヒマリの席にちょこんと座る。
静かな廊下に響くコツコツという靴音が近づいてくる。
丸メガネの奥にある、冷ややかな瞳と、我関せずの表情を微かに崩した口元。
眉を少し下げて「ミク」と静かに名前を呼んだ。
同時に、ふわりと甘く優しい香りが、教室に舞う。
「ヒマリ先輩、土曜日のお返事、もういただけるんですか?」
ミクは好奇心いっぱいの目で見上げる。
ヒマリは「ふぅ」と整えると、追及を始めた。
「ノアを通して誘うなんて、どういうつもり? 今度は何を企んでいるの?」
「いえいえ、勉強会のお誘いをしたかったんです。偶然ノア先輩とお会いしましたので、声をかけました」
「偶然会える場所にいないでしょう……はぁ、休日は忙しいの」
ミクはペンを顎先に添える。
ページをなぞるように目線を動かしたあと、もう一度見上げた。
「首席入学者と勉強は有意義だと思いませんか? 他校の生徒と交流は刺激を受けて、勉強の見方が変わると思うんです」
ジッとミクの瞳を観察するヒマリは、数十秒黙り込む。
逸らそうとしないミクの瞳は、好奇心の他にキラキラと輝く眩しさがある。
「……目的は?」
平静の表面を歩く言葉だった。
ヒマリの冷たい瞳は揺れ、唇を僅かに下げている。
ミクは机の中からスマホを取り出した。
「ヒマリ先輩、いいじゃありませんか。この学校は土曜日も開放していますから、いつものように、スマホを忍ばせておけばいいんです」
「探偵ごっこも度を過ぎたら、プライバシーの侵害よ。どこまで把握してるのか知りたくもないけど……面倒ごとは避けたいの」
「ノア先輩は面倒ごとじゃありませんか? わざわざ装ってまで会う理由とは? どうして友達に?」
「……ミク、スマホを返して」
ヒマリにスマホを渡し、ミクは手帳とペンを鞄に入れてから立ち上がる。
「一体なにをするつもり?」
静かに目を細めたヒマリだが、ミクはにこやかに笑っていた。
「普通に勉強会ですよ、ヒマリ先輩。土曜日、ここの校門前に午前九時集合でお願いしますね。ノア先輩も楽しみにしていますから」
それから、パタパタという靴音を残して、教室を後にする――。




