第三十六話 苦手なタイプ
「で、ヒマリの後輩がアタシになんの用?」
マナカは古本屋の扉や店内を見回したあと、腕を組む。
「ワタシはミクと申します。マナカ先輩のことを知りたくて待っていました」
「なんでよ、なんにも関係ないじゃん」
「いえいえ、ヒマリ先輩とすれ違ったあの時、目が合っていたのを憶えています。二人は深い関係にあるのでは、と思いまして」
迫る好奇心に視線を逸らし、マナカは片足を後ろに、つま先を立てた。
「別になんにも、ただの顔見知りってだけ」
「そうは見えませんでしたね。ワタシはヒマリ先輩の背中に動揺を感じました。マナカ先輩も僅かに呼吸が浅くなったように見えましたよ」
シャワーを浴びたばかりの素肌に、じわりと汗が滲んだ。
ミクの理詰めに近い口調と前のめりの姿勢に、マナカはただ唸る。
カウンターの内側で、マナカの祖父は新聞紙を広げつつ、横を見やる。
「ミクちゃん、なんでそんなに気になるんだ?」
地域のコミュニティ情報が書かれた記事を追いながら、祖父が訊ねた。
「ヒマリ先輩への恩返しです。今の日々を無意味にしてほしくないのです」
「そりゃ、どういう意味だい?」
ページをめくる、掠れた音が鳴る。
「ワタシたち学生の日々はごく僅かです。その日々をただ耐えるために使ってほしくない。せっかく新しい友人と出会えたのに、卒業すれば無かったかのように消えるなど、辛いじゃありませんか」
淡々と語る学生とは思えない台詞に、祖父は小さく何度か頷く。
新聞を畳んでカウンターに置いた。
黙って聞いていたマナカは眉を強く歪めた。
「アンタが思ってるより色々複雑なんだって……」
「なるほど、やはりヒマリ先輩は複雑な家庭環境で過ごされているようですね。それが原因で、今は――」
カウンターの新聞に迷いのない手が伸びた。
マナカはくるりと丸めて棒状にすると、ミクの前頭部に向けて振り下ろされる。
スパンッという乾いた音が店内に響いた――。




