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第三十四話 谷崎書店

「最悪……」


 重い雨音が響く。

 谷崎マナカはスポーツバッグを頭上に翳し、水溜まりを飛び越えながら走る。

 路面に跳ね返った雨が霧のように舞い散り、辺りが白くなっていく。

 ショートボブの毛先が額や頬に張りつき、思わずマナカは眉をしかめる。

 バネのように締まった太腿とふくらはぎに、雨粒がまとわりついた。

 中華屋を越え、住宅街の小道を抜けた先。商店通りの一角に建つ古本屋『谷崎書店』の出入り口で、マナカは軽く足踏みをする。

 センサーが反応し、自動ドアが開く。

 完全に開く前に隙間を通り抜けた。


「こぉらマナカ! 床が濡れるだろうがっ!」


 揃えた白い口髭を擦りながら、老齢の男が大きな声を出した。


「じいちゃん、ただいまっ!」


 マナカは爽やかに笑いながら、書店の床にスニーカーの甲高い滑り音を響かせた。

 祖父は、首を大きく振っては呆れを込めた溜息を漏らす。


「全く……客がいるってのに」


 祖父は渋い眼差しで、本棚にかじりつくように立つ黒いセーラー服の少女を見やる。

 切り揃えた前髪と、静かに揺れるポニーテール。好奇心を強めた瞳がキラキラと輝き、昭和三〇年代に刊行された純文学雑誌を読んでいた。

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