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第三十三話 眩しい陽射し

《私がミクちゃんと会ったこと、言ってないのに。ミクちゃんが話したのかな?》


 ノアは眉をほんの少し下げ、視線をロールケーキの真ん中に落とした。


「ミクから聞いたわ。ごめんなさい、後輩が迷惑をかけたみたいで」

「ううん、大丈夫。あの、ミクちゃん……他に、何か言ってた?」


 ヒマリの表情を、ちらっと上目遣いで覗く。

 静かな瞳に微笑みを浮かべ、ヒマリは優しく首を振る。

 

「いいえ。けど、優しい先輩だって」

「そ、そっか……私、優しいのかな」


 自信なさげに俯いたノアは、プラスチックのスプーンでクリームを掬い、口に運ぶ。


「私からすれば、どっちも変な子だけど」

「えぇー変かなぁ」

「ノアはお人好し過ぎ、ミクは知的好奇心のお化け。でもどっちも、眩しい陽射しみたいな存在よ」

「眩しい、陽射し?」

「えぇ……私にはないもの」


 コンビニの窓を濡らす雨粒が勢いを増し、駐車場より向こうの路面が霞んで見えなくなる。

 透明が似合うヒマリの綺麗な横顔に、目を奪われてしまう。


「あるよ、ヒマリちゃん」

「……私に?」


 儚く小さな笑みを向けられたノアは、強くゆっくり頷いた。


「うん、変な子に好かれるところ」

「……」


 ヒマリは、瞬きを細かく繰り返した。表情を崩さず、ただ真っ直ぐにノアを見つめている。

 軽い沈黙が、ノアに気まずさを感じさせる。


「あれ……えっと、その、包容力があるってことを言いたくて……えへぇ」


 照れ隠しに、にへら笑いを浮かべた。

 ノアは頬どころか、首元、さらに足の先まで熱くなってしまう。


「ふふっ、ふふふ」


 笑い声が漏れないように、ヒマリは手で口を押えながら、頬を緩ませた。


「え、えぇーそんな変なこと言ったかなぁ」

「ふふふ、ごめんなさい。でもやっぱり、変な子」


 変な子と言われても、ノアの胸はじんわりと温もりを感じていた。

 ふと、茜色の明かりが差し込み、二人は揃って窓の外を見る。


「あれ、雨上がってる」


 スマホの時計を見れば、午後四時半を過ぎていた。

 静かに、素早く立ち上がったヒマリは空になったカップをゴミ箱へ。


「そろそろ帰らないと。ごめんなさい今日はここで別れましょう」

「あ……学校まで、戻るんだよね?」


 ノアは遅れて立ち上がった。

 迷いながらも、ずっと気になっていたことを、慎重に選んでいく。


「そうね、忘れ物を取りに」

「その、いつも忘れ物をしてるのって、実は家に帰りたくない、とか?」


 ヒマリは冷たい表情で、ノアから目を逸らした。


「ハッキリ言えば、帰りたくないわね。でも今は、学生だもの。今日はご馳走してくれてありがとう。また明日ね」


 最後に微笑みと、バニラの甘く優しい香りを残して、ヒマリはコンビニから早足で出ていった。

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