第三十一話 久しぶり
「久しぶりノア」
ヒマリは淡く優しく声をかけて、テーブル席につく。
「久しぶり、ヒマリちゃん」
セーラー服の襟や肌から漂う優しい甘い香りに包まれ、ノアはニコニコと陽だまりのような雰囲気を醸し出した。
小動物を連想させるノアの笑顔に、ヒマリは小さく笑い声を漏らす。
「そんなに嬉しかった?」
「うん!」
力強く頷いたノアは、いそいそとカップティラミスとロールケーキをヒマリの前に並べた。
「なに、デザート?」
「うん、一緒に食べたくて。ヒマリちゃん、好きな方を選んでほしいな」
ノアは楽し気に胸を高鳴らす。
だが五秒過ぎても、ヒマリは黙り込んでデザートを見つめていた。
ちょっとした沈黙の間が不安を募らせてしまい、ノアは上目遣いで様子を窺う。
「えと……ダメ、だった? もしかして、家のルールで禁止、とか?」
不安はヒマリにも伝わり、静かに首を振る。
「さすがにそんなルールないわ。でも本当にいいの? それに今日は持ち合わせがなくて……」
「気にしないでいいよ! 私がヒマリちゃんと一緒に食べたかったから」
さぁ選んでとテーブルに両手を広げる。
「そう、ね」
「あ、もし気になるなら、出世払いでいいよ」
一瞬だけ怯んでしまい、目が点になるヒマリだが、すぐに唇に指先を添えて微笑んだ――。




