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第二十六話 平行線の対話

 愛沢ノアは、純粋な好奇心を前面に出したミクと目を合わせられず、吐き気に近い不快感で俯いてしまう。


「ノア先輩、大丈夫ですか?」


《ぜんぜんっ大丈夫じゃないぃ》


 ノアは青ざめた顔色で控えめに頷いた。

 紙媒体に囲まれたミクの部屋の中央で、微かに肩を震わせた。

 ミクは小さく息を吐き出すと、手帳を顎の先に添える。


「相手の家庭に踏み込む。そう思いましたか? ノア先輩」

「えっ……えと、うん」

「やだなぁ、踏み込もうなんて思いませんよ。ただ知りたいだけです、選択肢を広げるために。言ったじゃないですか――ヒマリ先輩に今の日々を無下にしてほしくないと」


 ノアは目を閉ざして首を振る。


「ヒマリちゃんの気持ちが分からないのに……」

「そうですね。ヒマリ先輩は何も教えてくれません。でも、対等にワタシと話してくれるんです。ノア先輩も、こうして話してくれますし。みんなワタシが話し出すと強引に切ってどこかへ行ってしまうんです」


 ミクは唇を尖らせた。


「ミクちゃんは、ちょっと詰め込み過ぎかも……」

「これでも結構抑えた方なんですが、難しいですね。うーん」

「ヒマリちゃんが望んでないことをしたら、それこそもう話してもらえないよ? 私は嫌だよ、ヒマリちゃんとせっかく友達になれたのに……」


 ノアは、しとしと降る雨のなかで笑うヒマリを思い出す。

 優しい口調を、ミクは一瞬で飲み込む。


「確かに、嫌ですね。他にヒマリ先輩のことを知る人に、心当たりはありませんか?」


 彼女の質問に、ノアは苦く口元を下げてしまう。 


「ごめんねミクちゃん、そろそろ帰らないと……」

「おや、そんな時間ですか。ノア先輩、お話ありがとうございました」


 ミクに中華屋のガラス障子まで見送られ、引き戸のレールが擦れる音が鳴ったあと、ノアは深い呼吸を繰り返す。


《怖かったぁ……でもいつもヒマリちゃんが忘れ物してるのって、もしミクちゃんの言ってることが本当だったら――》


 三つ編みおさげと、思わず惹き込まれる綺麗な顔立ちに丸メガネ。我関せずの表情だったり、微笑んだり、ノアの中で鮮明な映像として流れる。

 思い出す度に胸が締め付けられるほど切なくなってしまうノアは、喉を震わした。


《テスト、早く終わってほしい》


 胸元の服に皴が寄るほど強く握りしめた――。

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