第二十五話 プライバシー
「ひ……ヒマリちゃんを、何から助けるの?」
ミクの突拍子のない言動に傾げるしかなく、愛沢ノアは慎重に訊ねた。
純粋な輝きをもつ綺麗な瞳が瞬きもせずに、ジッと見つめている。
「身近な存在かもしれません。例えば、親とか」
親、ノアからすれば踏み込みにくい禁忌の領域に思えてしまう。
プライバシーである。
ミクの好奇心が非常に危険であることを感じ取ったノアは、否定を込めて首を振った。
「ヒマリちゃんは触れてほしくないかも。興味本位で介入するのはよくないことだよ」
優しい口調で苦言を呈するも、ミクはさも当然に「はい」と頷く。
「何度も聞いた警告です。ワタシの性質が良くないことも自覚しています。ですが、ヒマリ先輩はワタシに日々を与えてくれた恩人ですから、同じように日々に意味があることを伝えたいのです」
「日々?」
「はい」
もう一度、ミクは純粋に頷いた。
ノアは汗ばむ手の平を胸に寄せた。
「ヒマリちゃんたちの学校は、勉強できる人たちが集まってるんだよね? だったら、厳しい親とか普通にいるんじゃないかな……」
「一理あります。ですが、スマホをわざと学校に置いているのって、親にGPSつけられてるってことじゃないですか?」
実に単純なことである。ノアの経験値では全然思いつかず、いきなり正面から突き飛ばされたような感覚に怯んでしまう。
紙媒体の情報がテーブルや床、ベッドの上にまで散乱するミクの自室を目で追い、いかに情報や知識が必要か、改めて思い知らされてしまう――。




