第二十四話 忘れ物の話
「ワタシは夕方まで学校の図書室にいるのですが、毎回ヒマリ先輩が忘れ物を取りに戻ってきてるのを見かけます。忘れ物は決まってスマホ――変ですよね?」
ミクはやや早口で話をするので、愛沢ノアは余裕がない表情でとにかく聞くことに集中した。
《ミクちゃんが私の番号を知った経緯は、一旦忘れよう……》
「ワタシ、興味が湧くと抑えられない性質でして、スマホを覗こうとしたのですが、当然ロックがかかっていました。それで私服に着替えて後を追ってみたんです。そしたら──ノア先輩と一緒に帰ってるじゃないですか。交差点の信号前まで!」
ミクは目を大きく開き、前のめりになっていく。
彼女の圧に背中を軽く引いたノアは、ぎこちなく頷いた。
「うん、途中まで一緒に帰ってる、よ?」
「とはいえ、お二人ともまだ出会って日が浅いようですから、それ以前から日課のようにスマホを置いて、どこかへ行っているのです。ヒマリ先輩はかなり鋭い方なので、途中で撒かれてしまうのです。ノア先輩はご存知でしょうか?」
芯を突く疑問に、ノアは唇をむぐっと閉ざした。
純粋無垢な瞳が掃除機のようにノアを吸い込もうとしている。
視線をテーブルに落とし、目を細くさせて軽く唸った。
「ど、どうかな、途中まで帰るだけだから詳しいことは――」
フルーティーな匂いと焦げた臭いが、頭に過る。
湿り気を帯びた薄暗い路地裏で甘く優しい香水を吹きかけるヒマリの姿が思い浮かぶ。
とにかくノアはミクと目を合わせない。俯いて、膝の上で指先を絡めた。
ジッと顔から足元まで眺めたミクは、うん、と頷いた。
「そうですか。ノア先輩は――ヒマリ先輩を助けたいと思いませんか?」




