第二話 気になる子
高校二年生になれば、進路の話も増えてくる。愛沢ノアは、雨天のせいで憂い気味だというのに、さらに追い打ちをかけてくる『将来』にうんざりしていた。
《なんにも思いつかない。やりたいことないなぁ。先生とか親とか、ちょっと鬱陶しいかも》
我ながらネガティブな考え方だ、とノアは頬杖をつく。
二十歳になった自分がどうなってるのか分からない。
案外、二十歳になったら自然と死ぬようになってるのかも――などとぼんやり妄想する。
ふと隣の席からほのかにバニラの香りがして、ノアは顔を向けた。
ハンドクリームを塗っている生徒が、友達と話をしている。
「新しいの買ったの?」
「そう、あんまり香りキツイと先生がうるさいからさぁ、バニラなら優しいし、いいかなって」
今朝交差点の信号ですれ違った三つ編みの少女を思い浮かべた。
《あの子は将来のこと全部決めてそう。偏差値の高い大学に入って、きっと大きい会社とか、国の仕事に就職するんだ》
丸メガネの奥に見えた冷たい瞳と我関せずの表情を、ハッキリ思い出せる。
「バニラ……」
「愛沢さんも塗ってみる?」
隣の子がノアの呟きを拾い、掌を差し出した。
ノアは一瞬目を丸くさせたが、すぐに柔らかく微笑む。
「うん、ありがとー良い匂いだね」
バニラの香りがするハンドクリームを手に塗り込んだ。




