第十八話 テスト期間と呼び出し
一学期の期末テストが近づいてきた。
憂い気味に愛沢ノアは机にしがみつく。
《ヒマリちゃんは中間テストだって。期末は夏休み明けだって言ってた。あっちはテスト範囲がとにかく広いらしい……私だったら絶対ついていけない》
ノアは感心と嘆きを抱えて俯いた。
《つまり、テスト期間だから一緒に帰れない》
「さすがに勉強しないと親うるさいし、さっさと帰ろ」
「お父さんがうるさいんだよねぇ、マジで鬱陶しい」
隣からバニラの甘い香りが漂う。
伏せたまま横に目をやれば、ハンドクリームを塗る生徒。
三つ編みおさげと綺麗な顔立ちを、簡単に思い浮かべることができた。
《ずっとヒマリちゃんのこと考えてるかも、寝ても起きても、夢の中でも。ヒマリちゃんと友達になれて、名前で呼び合える、それだけのことで……胸や頭がいっぱいになるなんて、私、どうかしてる?》
勉強よりも、ヒマリのことばかり考えていた。
ぼんやりペンを握りしめて、ゆらゆら遊ぶ。
「ノア、ちょーっといい?」
机が少し揺れた。驚き間抜けな声を漏らしたノアが顔を上げると、両端に手をつけて見下ろす谷崎マナカがいた。
普段の明るさを弱めに、ぎこちなく笑みを浮かべている。
彼女の笑顔が不安を運ぶ要素ではないか、ノアはじんわりと感じ取った――。




