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第十三話 帰り道

「え、えへぇぇ」


 思わず零れた笑いに、愛沢ノアは口元を手で覆う。


《私に興味があるんだって、なんかすっごく胸があっつい――》


 ノアはこれ以上変な笑みが漏れないよう、軽く咳払いをする。


「じゃ、じゃあ、連絡先交換しよ」


 スマホを取り出すが、黒松ヒマリは眉を下げて申し訳なく目を逸らす。


「ごめんなさい、学校に忘れたの」

「そうなんだ……それじゃあ、明日また」

「これ電話番号。他は使ってないわ」


 ノートの切れ端をノアに差し出す。

 走り書きだが丁寧な文字で、電話番号が書かれている。


「あ、ありがとう、えっとまた電話するね」

「えぇ、けど平日の夕方以外は出られないの、ごめんなさい」

「家が厳しい、とか?」

「えぇ……厳しいの」


 ヒマリは、静かに頷いた。


「門限とか?」

「そうね、学校で勉強してるっていうていだから、遅くても五時ね」


 スマホの時計を眺めて、ヒマリの門限まであと三〇分ほど。

 寄り道して遊んでる暇もない、改めて環境の違いを思い知らされる。

 残り一口の抹茶ティラミスが入ったカップを握りしめ、『友達になれない』という言葉が頭の中で反響してしまう。


「うぅ、迷惑じゃなかった?」

「いいえ、愛沢さんが私のことを知りたいって言ってくれた時は、正直驚いたけど、嬉しかった。リスクも考えずに直感で危険なところに突っ込む人なんて初めてだから」


 褒められてるのか、貶されてるのか、ノアは複雑な気持ちを残り一口と一緒に放り込んだ――。



 束の間の一服を終えたあと、コンビニから交差点の信号まで徒歩五分程の距離を歩く。

 ノアは気持ちペースを上げて歩いた。

 ヒマリは気持ち速度を落として歩いた。

 

「さっきはありがとう、あまり寄り道は慣れてなくて、助かったわ」

「ううん、私も役に立てて嬉しかった。また違う一面も見られたし」


 ノアは澄んだ瞳で、屈託のない笑顔を浮かべる。


「随分私のイメージが高すぎるみたいだけど、勉学以外は大して知らない未熟者よ」

「そこが魅力的なの、黒松さん、なんていうか、ギャップみたいな。少しだけど……もっと色々知れたらいいなぁ」


 純粋に真っ直ぐ、ノアは誰もいない前に投げかけた。

 眩しい横顔をちらっと覗いたヒマリは、少しだけペースを落とす。


「一方的は嫌ね。せっかく友人になれたのに、私も愛沢さんのこと知りたいのよ」


 さらっとバニラの優しい香りと共に流れていく台詞。

 ノアは電気ショックでも浴びたかのように、体を跳ねさせた。


「うぇっ!? ゆ、ゆう、友人って、ことは……私たち友達ってこと?!」

「え……違うの?」


 しょんぼり、と寂し気な表情に変わっていくヒマリを見て、痛めることも厭わず全力で首を横に振った――。

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