第十二話 関心
軽快な音と一緒に、コンビニの自動ドアが開いた。
愛沢ノアは三つ編みおさげからローファーまで全身をずっと目で追いかける。
店員と他の客が、黒いセーラー服に物珍しい目線を送っていた。
「ここにいたのね、愛沢さん。お待たせ」
「う、うんっ、そんなに待ってないよっ」
バニラの甘く優しい香りがふわりと漂う。
テーブルに焦りを散らしたカフェラテと、少し崩れた抹茶ティラミスがスプーンごと転がっているのを軽く覗いた黒松ヒマリは、緩んだ吐息を漏らした。
「コーヒー飲もうかしら、いい?」
「大丈夫、うんっ」
ヒマリは早足でレジに向かう。
座り直したノアは、軽く逆上せた状態でカフェラテを飲んだ。
《私、なんか緊張してるかも。顔あつぅ》
掌を団扇代わりにひらひら動かし、火照る顔に風を送る。
代金を支払い、空のカップを持たされたヒマリは、コーヒーマシンまで進んだものの、少し困惑した表情で戻ってきた。
「黒松さん?」
「愛沢さん、ごめんなさい、これってどうしたらいいの?」
ノアは思わず瞬きを素早く繰り返した。
「え……あっ、マシンのところにカップを置いて、選んだサイズのボタンを押すんだよ」
すぐにもう一度立ち上がり、ヒマリと一緒にコーヒーマシンの前へ。
マシンのフタを開け、カップを置く。
「えっとコーヒーМなら、ここ。ボタン多いから間違えると、溢れちゃうかも」
「ここを、押す……」
ヒマリは恐る恐る画面のボタンを押すと、カップにコーヒーが注がれ始めた。
一気に香ばしさが漂う。
ヒマリは、気恥ずかしさから唇を緩めて、「ありがとう」と呟いた。
昨日とは違う表情と、新たな一面を垣間見たノアは、人知れず胸を擽られてしまう。
飲食コーナーのテーブル席に戻った二人は、ぎこちなく微笑んだ。
「あのね、黒松さん」
ノアから先に話しかける。
俯き、ちらっと上目遣い気味に、言葉を躓かせた。
「昨日の話、なんだけど」
ヒマリは「えぇ」と優しく相槌を打つ。
「テスト期間でなければ大丈夫よ」
予想よりもあっさりで、拍子抜けで、ノアは大きく安堵の息を吐く。
「ほ、ホント? 良かったぁぁ」
気の緩んだ笑顔で、抹茶ティラミスをどんどん口に運ぶ。
小動物によく似た頬張るノアに、ヒマリは目を細めた。
「愛沢さんは不思議ね」
「うぇっ?」
ノアは間の抜けた声を漏らす。
夕暮れの窓に目を向け、ヒマリは頷く。
「私、あまり他に関心なんてないの。でも、不思議と惹かれるのよ、眩しいぐらい」
ヒマリはカフェインをそっと、摂取する。
ストレートな言葉を投げられたノアは、口の中で味わっていたほろ苦い甘さが、一瞬で消えてしまう――。




