第一話 すれ違う香り
微調整しながら投稿しております。静かな日常の物語です。大きな出来事は起こりませんが、読んでいただけたら嬉しいです。
雨の日。
学校に行きたくないなと憂いながら、高校二年生の愛沢ノアは鏡に眠たげな目を向ける。
濃紺のブレザーとストライプ柄ネクタイを指先で整える。
それからプリーツスカートを軽くひらひら動かした。
暗めの茶髪を鎖骨のあたりまで伸ばし、毛先はくびれをつくる。
短めルーズソックスに、厚底スニーカーを履く。
軽く踵の紐を引っ張った。
ノアは折り畳み傘を広げて歩き出す。
鞄を肩にかけ、スマホを手にぼちぼちと通学路を歩く。
交差点の信号にて、同じ学校に向かう生徒が少しずつ増えてきた。
傘を軽く叩く雨音が、耳を癒す。
スマホから目を離し、青信号になったのを確認してから進んだ。
ふとノアの視界に入り込んだ、黒いセーラー服の少女。
三つ編みおさげに白リボン、丸メガネの奥に見える凍てついた瞳と、我関せずの表情に目がいく。
姿勢良く傘を差し、早足で歩いている。
すれ違い様バニラの甘い香りが漂い、つい横顔まで覗いてしまう。
綺麗な子、いかにも勉強熱心そうな子、ノアはそんな感想を抱きながら横断歩道を渡り終えた――。




