最終話 罰
東から、大陸へ帰ってきて一週間が過ぎ、クローリーの家にノルが訪ねてきた。
「どうも。クローリーさん」
「――どうした?」
「ちょっと、お話があります」
ノルは、手土産の入った紙袋を少し持ち上げた。
「前の日に『クローリーさんの家に行く』って言ったら、アルがカステラを焼いたので」
「じゃあ、お茶でも」
クローリーはノルを家に招き入れた。
「手土産があるってことは、それなりに長い話?」
「まぁ、それなりに。クローリーさんが多分、知りたいことですよ」
「カステラには、濃いミルクティーなんだよな〜」
クローリーは鍋に水と紅茶の葉を入れ、火にかけた。
「サリーさんのことです」
「やっぱり」
紅茶を火にかけているあいだに、カステラを切り分け皿に乗せ、菓子用の楊枝を添えた。
「彼女、神罰の烙印が手の甲に刻まれていたそうですね。それが先日消えました」
「どうなった?」
紅茶が沸騰したので火を弱火にし、鍋にミルクを注ぐ。
「両目が見えなくなりました」
「…………」
紅茶の葉が、浮いてきたところで火を止めた。
「彼女が勾留中、取り調べで指示役のホストの彼の現状を聞いたことで、逃亡を図った際、蜂に顔中を刺されました」
茶漉しをカップに乗せ、均等に鍋から二人分のミルクティーを注いでいく。
切り分けたカステラと、ミルクティーを持ってノルの前へ出した。
「階段の踊り場の窓から木に飛び移った、その木に蜂の巣があったんです」
「失明ということは、キラーホーネットか」
蜂の中でも、攻撃性と毒の強いものを殺人と呼ぶ。
「活動が活発になってきていたので、役所に駆除を依頼していたんですが、順番待ちで二日後の予定だったんです」
「アイツら、目を執拗に狙って刺してくるし、毒液をかけてくる」
「悲鳴が聞こえて、木から降ろした時、目はすでに手遅れだったようです」
「…………」
「その後、手にあった火傷のような痕は消えたそうなので、それが神罰かと」
クローリーは自分の席に、カステラとミルクティーを置き席についた。
「神罰が下ったなら、ノアかブラッドが来るかと思ったよ」
「僕が彼女のこと気になったので、上の階にいた時の同僚に聞いたんですよ。上の階のことはあまり下には入ってこないので」
中央監獄の上層は女性と少年、下層は凶悪犯罪者用となっている。
「そうか…」
クローリーはカステラの下についてる紙を剥がし、一口サイズに楊枝で切り分け、口に運んだ。しっとりと濃厚な甘さが口に広がった。それをミルクティーで流す。
「美味いよ。本格的なカステラだな。ウチの味だ」
「レシピを雨紺さんから貰ったそうです」
「紙は食べられないよ」
「ケーキにはない、しっとり感と弾力ですね」
「カステラには、パンや麺に使う小麦を使うらしいよ」
「……話には、続きがありまして」
ノルもミルクティーで、口の中の甘さを流し話し始めた。
「ん?」
「ホストの彼が金に困った理由が、スーツに金を使い過ぎたかららしいです」
「スーツは姉の特製だったと聞いたが」
「正確には僕が犬を引き取った、牧場のウールを使ったスーツです」
「そういえば、納品がかなり遅れていたらしいな」
「はい。季節のイベントに間に合わず、ナンバーワンと同じ仕立て屋でスーツをオーダーしたところ、なかなか気に入る仕上がりにならなかったみたいで、金額が膨らみ、金に困ったのが原因らしいです」
「何かと、因果な旅行だったな」
「そうですね。にしても、東の神様は法を守るんですね。彼女が勾留されてから神罰が下るなんて」
「まぁ、ところ構わず人を巻き込んで罰を下していたら、悪神になってしまうからな。神様もルールは守るさ」




