第五十八話 お菓子作りアルくん
アルは現在調理場に立っている。「お菓子を作りたい」と、雨紺と沙紺に頼んだのだが、材料に悩んでいた。
「クローリーさん、乳製品は大丈夫なのは分かっているんですが、玉子は大丈夫なんですか?」
お菓子作りには玉子を使用するものが多い。
隣にいた、雨紺がアルの疑問に答えた。
「黒瓜様は月人との混血なので、実はお肉を食べられるんですよ」
「食べないんじゃなくて、食べないんですか?」
「ええ、動物性のタンパク質を摂取し過ぎると、ウサギの姿を維持できないからと仰ってました。でも筋力の維持のために時々玉子は食べるみたいですね。メレンゲクッキーとカステラがお好きみたいです」
「そう言えば、船の中でメレンゲクッキーを食べてました」
沙紺が雨紺の言葉に付け足した。
「お菓子に使うのなら、養鶏所に黒瓜様専用の玉子があるんですよ」
「通常の玉子と違うんですか?」
「有精卵が混ざらない様に、飼育してるんです」
「なるほど、有精卵は生き物というこですか」
「そう」
「カステラってなんですか?」
再び、雨紺が答えてくれた。
「え~と、シフォンケーキやスポンジケーキみたいなものです。玉子をたっぷり使った焼き菓子です」
「黒瓜様なら、アルくんの得意なお菓子のほうが、喜ぶと思いますよ」
沙紺のアドバイスに、アルは得意な菓子を作ることにした。
「何が得意なんですか?」
「ジンジャークッキー」
「生姜のクッキーですね。クリスマスによく食べるやつ」
「知ってるんですね」
「黒瓜様のお父様が神父様で双子の妹、白瓜様がシスターなので冬になるとジンジャークッキーを差し入れに来ます」
沙紺の後に雨紺が話を続けた。
「黒瓜様は大陸の菓子も好きなので、レシピ本とお菓子を買って来ては、私たちに作ってと頼むんですよ。動物性のタンパク質を、バレないように摂取できますから」
「だから、メレンゲクッキーなんですね」
「生姜はありますけど、そのほかの香辛料はどうします?」
「そうですね…定番はシナモンとクローブですが、何か、東の香辛料を入れるのも良いかも知れないです」
「それなら、山椒が合いそうです」
「さんしょう?」
「胡椒に似た東の香辛料です。少しピリッと痺れます」
雨紺が山椒の粒を調味料が並んでいるところから持ってきたので、アルはそれを一粒噛んだ。噛むと強烈に爽やかな風味の後に、舌の痺れがやってきた。
「胡椒よりオレンジに似た爽やかな風味が生姜と合いそう…です…ちょっと、痺れますけど」
「では作ってみましょう」
「型抜きとかあるんですか?」
「ありますよ。お花の型」
沙紺が調理器具を仕舞っている引き出しから花の型を持ってきた。
「それで、抜きましょう」
通常の生地と山椒を加えた二種類の生地を作った。
「あとは焼いてみるだけですね」
「どうなるのか楽しみです」
十五分後、焼けたクッキーをオーブン釜から取り出した。しっかり濃いめの狐色に焼けている。
「いい感じに焼けてます。あとはしっかり冷まして完成です」
「楽しみです」
「そうですね」




