第七話 因縁
それは俺が駆け出し刑務官の頃、脱獄犯が南北の山頂付近に潜伏しているらしいと、先輩一人と同期の刑務官俺を含めて四人の五人で捜索に行った時の話だ。
南と北の国境の山は、北側のダンジョンの近くにあるので、上級のモンスターが時々、出現する。
そう…その時も、蜂蜜の匂いから俺たちの恐怖が始まったのだった。
「なんか甘い匂いがするな」
「蜂蜜の様な……」
「うわっ…なんだ。この黄色いネチョネチョした物体は…」
「……なんか足裏が熱く…く…靴が溶けた」
先輩と同期三人が口々に言っている最中、俺は背後にただならぬ気配を感じ動けなくなっていた。
「……あ。あの…俺の後ろどうなってます…?」
「熊だ…黄色い熊が………」
「イエローベアーは北のダンジョンにいる上級モンスターだ。お…オレたちに勝てるわけがない。討伐要請出せ」
「おい…ブラッド。オマエは振り返るな。そこを動くなよ」
「…………」
そして、俺は先輩と同期二人に見捨てられ、置いていかれた。
逃げ遅れた同期と、見捨てられた俺がどうなったかというと、黄色い熊が亜人を捕まえる時に出す粘液に包まれ、拘束されたまま巣穴に連れていかれ、食べる前の準備として黄い熊の吐く消化液のゲロまみれにされ、服と全身のあらゆる毛が全部溶かされ全裸で身動き取れず熊に弄ばれ、同期とくんずほぐれつ…恐怖に怯えていた。
大型熊類は北にしかいないモンスターなので、黄色い毛につぶらな瞳、赤い腹巻きのような毛を持つという見た目以外の情報が殆どない。
おおかた全身の毛がなくなったところで水洗いされ蜂蜜漬けにされたが、身動きが取れる様になったので、黄色い熊の寝ている隙に同期となんとか逃げ出した。
俺をこんな目に遭わせた復讐のため、討伐許可を貰いに近くの駐在へ駆け込み、王国の許可を貰い。討伐隊へ参加し倒した。
その時の俺は、全身のあらゆる毛が溶かされ、俺の頭は産まれたままの姿よりも、ツルツルだった。
髪の毛が、元の長さに伸びるまでに丸二年もかかった。
同期は元々髪の毛が薄かったのだが、毛が溶かされた影響か、フサフサになって喜んでいた。
そして、俺を見捨て減給処分された先輩と同期より、俺たち二人は早く出世した。
「え~と…どこが恐怖だったんだ?」
「黄熊のゲロで、俺の美髪が全部無くなってツルツルになったんだぞ。あのゲロは服と毛だけを溶かす。恐ろしい」
「ヤツは服と毛を溶かして、蜂蜜漬けにしてからでしか喰わないってことか。グルメだな」
「……ゲロまみれにされた後に、水で丁寧に洗われてから、蜂蜜漬けだけどな。調理される食材の気分を、生きたまま味わうなんて、恐怖でしかないだろ」
「上級モンスターは食べるのに、手間ひまかけるんだな…それで強いのか?」
「怒ると、触れたもの何でも溶かす強酸のヨダレを垂らしながら突っ込んで来る。飛び散ったヨダレに当たった討伐隊のひとりが、足を失って義足生活になった」
「伊達にA級モンスターなわけじゃないな」
「南側ではS級だが、北ではA級なのか?」
「熊共通の倒し方があるから、熊類はまとめてA級だな」
「……俺は、掩護に回る」
「ちゃんと援護しろよ」




