第三話 北の族長
北の外れに出現した人間の世界との扉を調べるため、王国へ行ったのに、結局北へ戻ることになった。
「あ~王国で買い物したかった」
馬車に揺られながら、肩を落とし項垂れていると、ブラッドが慰めてきた。
「文句言わない」
「……装備新調できずに、任務中俺が死んだらオマエのせいだからな」
「そんなヤワなタマじゃないだろ」
「美味いものも食べたかった…」
「俗物め」
「俗じゃなきゃ、制御装置つけてまで、こんなナリしてませんって」
そう、全てはカネを稼ぐため。
「まぁ…女関係くらいだな。お前がキッチリしてるのは」
「単に夢見がちなだけよ。大恋愛ってヤツに憧れてんの」
「王国の娼館に行くの知ってるんだからな」
「……っても、ストリップ見るだけだから…」
「まぁ…異種交配は刑罰対象だし、そもそも未成年者が入るとこじゃないだろ。しょっ引くぞ」
「中身は成人なんだから、いいだろ。前一緒に行った時、俺だけちやほやされて妬いてんのか?」
バニーは身分証で年齢の認証をすれば、この姿でも、未成年禁止の店に入れる。飲酒は体の負担になるので、基本飲めないが年齢的に自己責任だ。
「……あの時は、おっぱいに挟まれ…ゲフンゲフン…子供は得だな」
「俺の品の良さのおかげ。新しい娘入ったらしいし、行っとけば良かった」
「……うぉっほん。もうすぐ着きますよ」
下世話な話に御者が咳払いした。
「スミマセンね〜このコ下品で」
ブラッドに頭を鷲掴みにされ、頭を強制的に下げさせられた。
話を振ったのは、ブラッドなのに、誠に不本意である。
「ありがとう御座いました」
御者に金を渡して気を取り直し、森の奥にいる族長のいるところまで歩く。
「……さてと、北の外れに行くには、族長の許可を貰わないとな」
「獣人ですら許可がいるってどんな場所なんだ?」
「元々、遭難者が多いから許可制で、立入禁止までではなかったんだが、昔にイエローベアーが出て村が襲われて以来、結界が張られ許可なく立ち入り禁止になった」
「黄色い熊か。一度討伐したことがあるが、アイツ熊のクセに毒持ってるんだよな。上級モンスターがなぜ」
「北のいちばん外れに、ダンジョンがあるのは知ってるだろ?時々そこから出没して、たまに人里へ降りてくるから結界が張られている」
「一応管理職だからな。昔任務で南に出現したイエローベアーの討伐へ行った。その時は反対側の南だから、北側の事情は知らない。山の南側から回り込めばいいのでは?」
「族長に人間の集落の話聞きたいだろ。場所も知りたい」
「確かにな。南側からだと集落の場所が分かりにくい」
「北側は、そのダンジョンへの道は一本だけなんだ」
「地図では広く見えるが?」
「北から、そのダンジョンへ行くには、氷と雪の少ないルートを通るしかない。扉はダンジョンの近くなんだろ?」
「他の道は、険しすぎるというわけか」
「別ルートの開拓に行ったライカンは全員、吹雪で遭難して、帰ってこなかった。今までに百人程が亡くなったらしい」
「巨大毒熊は出るし、道少しでも間違えたら帰れないとか怖すぎるんだが」
「吹雪は強風で鼻が利かないし、火も使えない。ホワイトアウトで方向すら分からなくなる」
「……結界の外ということは、黄色い熊がうろついてるかもということだろ。北は管轄外だし、めちゃめちゃ、行きたくなくなった」
どうやら、ブラッドはイエローベアー討伐に良い思い出がないらしい。
道中の森の中で、ガサガサと音が鳴る度に「熊じゃないか」とブラッドはビビリまくっている。
「うわ…岩かと思ったら、寝てる熊だ…」
どうやら起こしてしまったらしく、寝起きで不機嫌そうにコチラを見ている。
そして立ち上がり、戦闘態勢で俺たちを襲う気満々だ。
「グリーンベアーは草食だから、俺たちを食べたりしないが、攻撃をマトモに喰らったら首がへし折れ即死だ。毛は草だから俺たちでも食べられるし、肉は高級品で高く売れるから狩って族長への手土産にしよう」
「え…俺、熊は怖いから嫌。『コクーン』」
ブラッドは、目眩まし効果のある下級の防御魔法を自分にかけ、戦闘する気ゼロらしい。
「仕方ねぇな…」
『アエールライフル』
空気をライフルの弾状にして敵に撃ち込む中級風射撃魔法。
傷口が最小で済むので、素材が高く売れ狩猟に良く使われる。
俺の最も得意とする魔法だ。
「脇腹から心臓に向けて撃つ」
「……俺も、射撃魔法は得意なほうだから教官をやっていたが、相変わらず高速で狙えるオマエ凄いな」
俺とブラッドの出会いは、魔法学校の教え子と教官の関係である。
初級魔法に免許はいらないが、中級以上の魔法は魔法学校で講習を受け、各種ごとに免許が必要だ。
因みに、俺は風射撃魔法の上級免許まで習得し、免許証の色はゴールドだ。
その後、何事もなく、族長の家の前に辿り着き、族長の家のドアを叩いた。
「……族長。クローリーです」
「そろそろ、来ると思ってたよ」
「お久しぶりです族長殿、王立刑務所看守長のブラッドです」
「前に来た時は、まだ看守だったかな」
「前?」
「ウルフの逃亡犯を見つけて、通報してくれたことがある」
「へぇ…」
どうやら、俺が生まれる前か幼少期の話らしい。
「あの時は、ご協力ありがとうございました。ところで族長殿。話を伺いたいのですが」
「ウサギの連続惨殺犯の話じゃろ?」
「ええ…族長殿に何か心当たりは?」
「犯人は儂の弟かも知れん」