最終話 族長就任
追いかけた青年は思いもしない発言をした。
「族長の腹違いの弟って、どういうことだ?」
「僕の父は、先代の族長の弟の子で十五歳から十七歳まで、先代の族長のお屋敷に小間使いとして雇われていたんです。先代は結婚してもなかなか子供ができず、夫人が父のことをいたく気に入り…」
「手を出したということか」
「先代に念願の双子の跡継ぎが生まれて、片方は濃いオレンジ髪じゃなかったので養子に」
「…………」
「父はもしかしたら自分の子じゃないかと怖くなって、お屋敷を出た後、祖父と同じく、図書館の司書になり母と結婚して僕が生まれました」
「確かに双子の父が、あなたの父ならばフォッグ族長とは腹違いにはなるな」
「フレミッシュ家は代々、男系にオレンジ髪が出やすい一族で、髪の色が濃く鮮やかなほうが、薬草を見つける能力が高いとされてきました。祖父のほうが先代族長より髪の色は濃かったようなんですが、薬草や薬に興味がなく家を継がなかったんです。当代が違法薬物で逮捕され、新しい族長が就任されると聞いて見に来たんです。昔会った族長と同じ濃いオレンジ髪ですね」
「フォッグ族長に会ったことがあるのか?」
「三十五年くらい前。僕が小さい頃、王国図書館の司書である父が、南の図書館の視察をするというので、ついて行って退屈していたら、一緒に遊んでくれたんです。髪の毛の色でフレミッシュ家の人だと、互いにすぐに分かりました。薬草を研究するなら自然に近いところに住むほうが良いと話してました。フォッグ族長は先代が亡くなった後、お屋敷を売りに出して、現在の家を建てる分だけ取って、残りの莫大な遺産を先代族長の兄弟と親戚に平等に分配したのです。祖父はそのお金で父を大学に行かせて残り半分のお金を王国に寄付し、老朽化した王国図書館の建替えに携わったのです。お金に執着のない人が違法な薬に手を出すとは思えません」
「そうだな」
「儀式の邪魔をしてごめんなさい。証人の方ですよね」
「いや…俺こそ。ただ見に来ただけなのに、引き止めて悪かった」
その話が本当なら、この乗っ取りは双子の片割れが養子に出されたのを知らないフォッグ族長が、養父母に父の遺産を分配しなかったことが原因か。
先代が完全に戸籍を書き換えたから、普通に調べただけでは、フォッグ族長は養子のことを知りようがない。
族長の親が誰だろうと、一族の血縁に変わりはないし、クレールやリリさんが立派な人には変わりない。
戻ると儀式が終わり食事会をしていた。クレールが話しかけてきた。
「クローリーさん。あの方は?」
「先代の親戚だそうだ」
「親戚となると、父の従兄弟ですね。図書館で司書をしているとか」
「知ってたのか」
「ええ、会ったことないですが、一族の者に族長就任の連絡はしましたから」
「そうだったのか。族長就任おめでとう」
「クローリーさんとブラッドさんがいなかったら、このことはもっと別のカタチになっていたかも知れません」
こうして一連の惨殺事件は、新しい族長就任と共に幕を閉じたのであった。




