第二十二話 地下九階
中央監獄地下九階。ここは最も重い罪を侵した者が収監される階である。
無差別テロリスト・奴隷売買の元締め・大量殺人鬼などが収監され、通常の刑ではない刑を受けている。
収監された囚人へ刑を課すため、看守長のブラッドは地下へ降り、新たに収監された囚人のいる第十三房へと向かった。
この階の他房の囚人は狭い独房に猿轡・手足の拘束・目隠しで完全拘束されているが、第十三房に新しく入った二羽のウサギは猿轡を嵌められ、屠殺された牛や豚の様に手を上に一纏めにし吊し上げられ、腹を割かれて内臓が剥き出しになっている。
「同じ目にあった気分は、どうですか?」
「…………」
「…………」
看守長の挨拶に、二羽のウサギは応えない。
「ああ…声帯を切って、まだ再生していないから答えられないか。まぁ…元々ウサギは鳴かないから自然な姿だな」
「…………」
「…………」
「今日は肝臓を半分切り取って犬にでも食べさせるか。太い血管を傷つけない様にするのは面倒だな」
看守長は小型のナイフで手際よく二匹の肝臓を切り取り皿に乗せた。
「今日はこれだけだな。あまり切り刻むと、取る場所が無くなってしまう。最低でもこの状態で二十年生きて貰わねば困るからな」
「…………」
「…………」
「リンクは薬漬けにされず、痛みによく耐えた。質の悪い薬の副作用を恐れて痛み止めを使用しなかったんだろうが、父と兄弟のため『痛い』とは言えなかったんだろう」
看守長が肝臓を切り取り止血している間に通信器が鳴った。
『看守長殿。女性階で自害発生っす』
「ノアか取り込み中だ。俺は女性階の看守長じゃないぞ」
上層階の幼年、少年、女性監獄の看守長は女性と決まりがある。監獄での自害発生は、珍しいことではない。
『ウサギの奥さんです。遺書にブラッド看守長の名前がありました。獄長の検閲済んでるので、看守長室に置いておくっす』
「……分かったすぐ行く」
「…………」
「…………」
今まで無反応で切られていた、二羽のウサギが少しだけ身じろぎした。
「ああ…妻と母だもんな」




