第二十話 矛盾
「とりあえず、逃げ出したり暴れたりしない様に拘束させてもらいます」
拘束され、諦めがついた顔で族長がゆっくりと語り出した。
「…話すことは前にほぼ話した。私がマーコットで人間の女を愛し産まれた子が、そこにいる子リンクです。リンクも病に冒され内臓が長くは持たない。だからグール化した内臓を…」
犯行の動機以外は、以前聞いたのと、同じ内容だ。
「研究室にいたのは、約五十年前この世界に来た人間の男女七人ですね?」
「……ええ…五十年前に来たのは確かですが、男女七人というのは、どこから…」
「あなたが言ったのですよ。泉の向こうの洞窟に、弟が愛した女性の兄がいると」
「ええ、言いました。住んでいたのも本当です。でも二十前に亡くなっています。イエローベアーに襲われ、洞窟は奴の巣になってしまったのです。私はあなた方がイエローベアーに食べられてしまえばと思い嘘をついたのです」
ノアは人間の匂いはしなかった。亡者かもしれないと言った。
「ノアの鼻は確かだったってことか…」
「疑ってたんすか? 看守長」
「まあな。彼は医学生で妹の病気の診断をしたと言っていた。息子さんの病気の診断は?」
「……それが、私が診て貰おうとした矢先、イエローベアーに食われ…」
そこで疑問が生まれたので質問する。
「じゃあ、誰が病気だと診断したんだ?」
「私が愛した彼女と同じ症状が出始めて、私がそうだと……」
「治癒士には診てもらったんですよね?」
「はい。彼女を診てもらった時と同じ様に体の中を…やはり肝臓がおかしいとのことで、治癒魔法を試したが、魔力を持たないせいか効かなかった」
もしかしたら、金を取るだけ取るヤブ治癒士かもしれない。
「王立の…いえ…何でもありません」
やはりブラッドも気になる様子だ。
「族長という立場を失いたくなくて、この子にマトモな治療を受けさせてやれない…全部、私のせいです」
族長は二人の息子を前に、どちらとも目を合わさず俯いたままだ。
「……いいや…違うな『自分の息子の研究の為に』だろ」
族長は俯きチラリと、くすんだオレンジ髪の青年の方を見た。
「……オレのせいだって、言いたいのか? 母さんと結婚して大して経ってもいないのに、人間の女に入れ込んで子供まで作って、その後に弟と妹まで産まれたんだぞ。俺には秘薬の研究をする権利がある」
族長は確かにアレだが、それはそれな暴論だ。
「なぁ…何でオマエ…諜報任務で稼いでるわけでもないのに、制御装置つけて中途半端な年齢なんだ?」
代わりにブラッドが答えた。
「……王立の研究所や職員の試験は年齢制限がある。エルフより寿命の短いライカンの年齢制限は二十代までだ。最低でも五十年は研究所にいてもらわないとならないからな。いくらウサギが若作りとはいえ、俺の頭で考えても隣にいるリンクさんと同じくらいの年齢なはずだが。年齢詐称もオマエの罪に乗せてやろうか?」
「芽が出ないまま、試験年齢超えたから、試験受けるためにハタチそこそこの見た目か…」
「……それの何が悪い。王立の研究所は俺を採用しなかった」
「薬草の研究はウサギの得意分野だから、優秀であれば採用されるはずだ」
「秘薬のレシピを王国に売ろうとしたな。ライカンにも刑罰はある。ウサギの刑罰は…」
耳切りだ。犯罪者の証として耳を切り追放される。耳を切ることで犯罪者だとひと目で分かる見せしめ刑だ。
「……それもこれもクソ親父のせいだ。俺に秘薬のレシピを教えてくれないクセに、息子を助けたいからと俺に協力する」
「今後のためにも研究内容を言え」
「グール化を抑えたまま、身体の再生能力を上げる薬の研究だ。薬の開発に成功すれば、脳・心臓・脊髄以外の失ったパーツを魔法なしで再生できる」
「グール化が前提な時点でクソだな。薬にグールの血肉を使ってるんだろ。吐き気がする」
「クローリー口が悪いぞ」
「不老不死は永遠のテーマだろ」
「俺は人を食ったり、人殺しをしてまで寿命を延したくないね」
「……僕のせいです…」
今まで沈黙を貫いていたリンクが声を発した。




