第十九話 禁断の扉
ノルが言っていた扉の前へ来たが、鍵がかかっている。
「壊すか?」
ノアがポケットから細くて尖った金属を取り出し鍵穴に差し込んだ。
「ノア様にお任せあれっス。こうして……」
ガチャリと鍵が開く音がした。
「獄卒の特技が鍵開けでいいのか?」
「たまに鍵束忘れたとき、近くにいると重宝する」
重い扉を開けると、そこには目を覆いたくなるような光景があった。
両手を挙げて鎖に繋がれ、壁に磔になったグールの男女が六人横に並べられている。
全員、腹を開かれ、内臓がむき出しで臓器の一部がない者もいる。
「クローリー。お前の言ってた予想ってコレか?」
「……ああ。グール化してしまえば死なない。臓器の交換も自由だ」
「まさかリンクも…」
「それはどうだろうな。グールの血が混じればグールになる。人を喰わねばならない」
「月人が何人か襲われているのは…」
「月人の血でグール化を抑える薬を開発してたんだろうな。この六人を使って。東には僧侶の肉を喰うと不老不死になるという言い伝えがある。もちろん違う意味の“喰う”だが、勘違いする奴らもいる」
「話によると、人間は七人なはず」
「ひとりは人間のうちに逃げ出して、グールのエサになったんだろう」
「例の食べたことのない肉…か…」
「あの六人痛みを感じない様、阿片漬けにしてある」
俺たちが入ってきても見向きもせず何かを呟いたり、何かに語りかけたりしている。
「麻薬漬けの肉なら、かなり美味しいかも」
「そうだな。最後には気がおかしくなるほどに美味い肉だろうよ」
「被害者の匂いがグールに…どういう意味だ?」
「殺して持ち帰った臓器を、くっつけて活きのいい臓器を作り出してるんだろうな」
「リンクは、それだけ頻繁に内臓を交換しているということか?」
「まだ、実験段階だと思いたいところだな」
「パーツ交換で長生きできるなら、苦労はしないっす」
男女六人の足元に背の高い犬耳の男が雑に転がされている。
「兄ちゃんっ!!」
ブラッドがすぐに駆け寄りノルの呼吸と脈を確認した。
「……ノルは無事のようだな。眠らされているだけだ」
「良かった兄ちゃん〜」
「この部屋の主は逃げるのを優先したようだな。サーチ」
壁に隠し扉があるのが見えた。
「サーチ魔法も使えるのか…」
「隠し扉を見つけた」
壁にある一つだけ少しヒビの入ったタイルを押すと、壁が横に動き通路が現れた。
「この奥に…」
「早く行って終わらせるっす」
細い通路の突き当りの扉を開けると、族長と、その息子らしきウサギが二人いた。
ひとりは、くすんだオレンジ髪の青年で、もう一人はブロンドの中年男性だった。
中年の男のほうは片目の白目が黒くなっている。グールになりかけだ。
「コンバンハ、族長殿…コレはどういう事なのか、お聞かせ願いましょう」
ブラッドが、にこやかかつ丁寧に族長に話しかけているだけで背筋が寒くなる。
話しかけてもいない、くすんだオレンジ髪の青年が口を開いた。
「……お…俺は父の研究を手伝ってただけだ…」
「お前の母親から聞いた。薬剤師なんだろ? さしずめ新薬の研究員になりたくて、論文を書くために新薬の実験をここでしてたんだろ。そのためには秘薬のレシピが必要だ。族長権限を使えなくなって、いちばん困るのは長男のオマエだ」
ブラッドが族長に問う。
「全部、話していただければコチラの手間が省けますので、少しは罪が軽くなるかも知れませんよ」
どう考えても、この状況と殺しの件数を考えると、そんなことは無いが、族長が口を開いた。
「私が浮気相手の息子リンクを助けたい一心で起こしたことだ。長男は関係ない」
くすんだオレンジ髪の青年が呟く。
「……父さん…」
「動機次第で、多少は情状酌量の余地も…」
ここから先はブラッドに任せることにした。




