第十八話 死の匂い
来るまで「待て」と言われても約4km離れているので走って約三十分というところだろうか。
ノアだけなら半分の時間で来るだろうがエルフは走るのがそんなに速くない。
ウサギの逃げ足は速いが持久力が無いのですぐバテる。
『いや…待て…オマエら飛ばし過ぎだ…』
心配したそばから息切れが聞こえてきた。時計を見ると、まだ十分程しか経過していない。
『クローリー運動不足じゃないか』
『そうッスよダンナ』
『俺の歩幅と身長考えろよ』
『ウサギなんだから跳んだらどうッスか?』
『――バカにすんな』
犯人に近づいているというのに緊張感がない。と思っていると、ついさっきまで濃厚だった被害者の匂いが薄れて別のものに変化しつつあるのを感じた。
「被害者の匂いが変化した」
『どう変化した?』
「…………この匂いは…グールだ」
『想定していた最悪のシナリオだな』
「一体何が」
『もう少し待っていてくれ。もうすぐ着く』
「ああ…」
匂いに集中していると、どこからともなく煙が漂ってきた。
「感知〜カンチ〜危険をカンチ〜」
使い魔が騒ぐ。
「……ヤバい…何かの薬だ……」
腐った果物の様な匂いと共に頭が痺れ意識が飛びそうになる。
『コレは阿片の煙だ』
「アヘン?」
『東ではそう呼んでいる』
「しゃだんしゃだんしゃだん」
『あと十分で着く。それまで意識を飛ばすな我慢しろ』
「……そう…言われて…も……」
意識が溶けるのを必死で繋ぎ止めようと皮膚に爪を立てた。
「くっ、いたみをかんじない」
口が回らなくなってきた。
『強力な麻酔作用がある』
「…………」
遠くで看守長の声が聞こえる。
『麻薬は解毒できない』
「…………」
鼻に意識を集中させて意識を保っていたが、その匂いも消えつつある。
「ぐーる」
『ノル兄ちゃん頑張れ』
「…………」
『…チッ…意識が切れたか。幸い通信器は繋がったままだが、転送先の相手の意識が途絶えては光魔法が切れて灯りがないから暗闇で目が使えない』
「見えない見えないの真っ暗くらくら」
『……死んだりしないっすよね?』
『麻酔作用だけなら、二時間から三時間眠るだけだ』
『良かった』
『もうすぐ着くぞ』
俺たちは待ち合わせ場所の洞窟の別れ道に到着したがノアの兄ノルの姿はなかった。
「ノル兄ちゃ〜ん」
「いない」
「犯人に人質に取られたか?」
近くに口の縛られた黒い布袋がゴソゴソと動いている。
「ヌシサマ〜ヌシサマ〜ヌシサマ」
「使い魔が袋に入れられてる」
「ヌシサマ〜暗い暗い暗い〜」
「よし、戻れ」
袋の口を解いて使い魔を解放し召喚を解除した
「この先、右だったな」
「兄ちゃん最後にグールって言ってたッスよ」
「被害者の匂いがグールになった?」
「考えたくもなかった予想が当たった。行ってみれば分かるさ」




