第十六話 満月前
「しまった。って何が?」
「息子は諜報員と族長の奥様が言っていた。盗聴されていて、俺たちが冥府に行くタイミングで犯行に出たかもしれない」
ブラッドと話した内容の盗聴対策と尾行には気をつけてはいたが、流石に他人との会話まで対策はできない。
「優秀な諜報員は、数キロ先の特定の会話まで聞き分けられるらしいな」
「ああ…どうりで尾行がいないわけだ」
「だが、なぜ父の浮気相手の子を死なせたくないに協力する?」
「族長権限を剥奪されるのが嫌なのかもな」
冥府から看守室までログを辿って戻りエレベーターで地上に戻るとノアが待っていた。
「早く現場まで行くッス。いま兄ちゃんが犯人のニオイを追跡中ッス。ログつけて直行できる様にしときました」
「でかしたノア」
「……行くぞ」
現場へ向かうと、騎士団が現場検証をしていた。
現場責任者らしい金髪で細身色白のエルフが、俺に話しかけてきた。
「おやおやハンターさん。犯行阻止はできなかったようだね」
「犯行阻止はソッチの仕事だろ。犯人探しをハンターに丸投げしたクセに」
「で?犯人は分かったのかい」
「まだだ」
族長たちが犯人なのは分かっていることだが、息子のリンクと内臓の持ち去り先を探さないことには犯行の証明ができない。
「……俺もいるんだが。ハンターの依頼を正式に受けているんだ。現場を見る権利はある」
「これはこれは看守長殿」
腹の立つ厭味な物言いをする騎士団員を置いて現場の検証を行う。
現場に入ると、新米らしい騎士団員が敬礼をし、被害者の説明をしてきた。
「被害者は月人の僧侶、今までと同じく、後頭部を殴り気絶している合間に腹を裂き、内臓を持ち去り殺害されています。現場にはウサギの足跡が」
言われた通り殺害現場の近くを見ると、足跡があった。
ウサギ特有の、つま先に体重のかかった大きい足跡だ。
「……確かにウサギのだ。足跡のニオイを嗅いでも追跡はできなかったらしいな」
少し遅れてやってきたノアが口を挟む。
「今回はやり方を変えて、被害者のニオイを追跡してるっす」
「内臓を持ち去ったということは、被害者のニオイが続いているということか…」
「今回は解毒薬も持ったから、鼻も効くはずッス」
言ったそばから通信器の着信音が鳴った。
「あっ、ノル兄ちゃんからだ。もしも~しノル兄ちゃん」
『ノアか…追跡したは良いが匂いが途切れた』
「近くに洞穴とか無い?」
『それらしきものは見当たらない』
ブラッドが舌打ちした。
「チッ、行き詰まりか?」
「いや…ウサギは子を隠すのに、地面に掘って穴を埋め直して子を隠す。近くに地下への入口があるはずだ」
『サーチ魔法を使えない俺には見つけられない』
「片目貸してやるから現在地を教えろ。なるべく正確に」
『西の端の断崖にある草原、北と南の国境が向かいに見えるところだ』
「分かった」
『うわっ…何だコイツ…』
「使い魔だ」
「……使い魔だ、と…」
ブラッドが驚いているが、いまはそんな場合ではない。
「話は後だ」




