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ほぼ亜人種しかいない世界で、おっさん声うさ耳獣人ショタとドSなダークエルフのバディが活躍する話  作者: しおんえみ
王国連続猟奇殺人事件編

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第十五話 新月の夜

※グロテスクな表現があります。苦手な方はご注意ください。

 新月の夜、ダンジョン近くの滝の裏の洞窟へ光虫一匹を連れて亜人狩りに出た。

 ブラッドとかいうダークエルフの男が看守長になってからというもの、冥府に送られてくる罪人が減って、俺たちは少ない食料を分け合って食べている。

 だが、喰い足りないので、時々、外へ狩りに出る。


 この辺りはよく、ウサギのライカンが月明かりのない日に月夜草の無断採集に来る。採集する様なウサギは狩りが苦手なので弱い。肉も柔らかくて美味い。


 光虫の灯りを頼りに、月夜草の生えている開けた場所につくと、人影があった。

「…………ゴメンナサイ…ゴメンナサイ…」

 エルフ耳でも、ライカンでもない女だった。人間というやつだろうか。後ろを向いていたので、喰うために優しく声をかける。

「……何かあったんですか?」

 振り向いた女の片目には白目が無かった。俺と同族だ。

「…あ…ゴメンナサイ…ゴメンナサイ」

 女の口は血まみれで、何かを食べている途中だった。

「美味しそうな物を食べていますね」

「……アナタも食べる?」

 差し出されたのは生物の内臓だった。

「貴重な食料なのでは?」

「食べて…肝臓なの」

 貰った肉を一口噛み千切ると、今までに食べたことのない味と食感だった。

「これは何の肉?」

 西から人間がいなくなって、かなり経つ。仲間によると物凄く美味い肉らしい。

 “らしい”なのは俺がグールになってから、それほど長くは経っていないからだ。

「…………」

 女は答えない。どうやらとっておきの肉らしい。

「また次の月に来て…」

「そんな貴重な肉を、なんで俺に」

「誰でもいいから、食べて欲しかったの」


 こんな美味い肉の入手方法を簡単に人に明かすわけはないと、深くは追求せずあの女と仲を深めれば教えて貰えるかもしれないと、素直に冥府に帰ったが、普段の食事に何か物足りなさを感じる様になっていた。


 約束通り、次の新月に同じ場所へ行くと、女が肉を貪る様に食べていた。

 片目だけだったグールの証が進行してもう片方の目の白目も黒くなりかかっている。

「…来てくれたのね」

「今日はどこの肉?」

「太もも」

「普通の腿の肉は硬いが、柔らかくて美味い」

「ありがとう…また次の月にね…」

「ああ…」


 俺は彼女の差し出す肉のことばかりを考えるようになった。


 次の月、彼女に会いに行くと片目が無くなっていた。

「どうしたの?」

「失くなっちゃったの…」

 俺は彼女のくれる肉を早く食べたくて、その時は気にしていなかった。

「今日は腎臓」

「……美味しい。今日は少ない…」

「今日はこれだけなの。また次の月にね…」


 次の月に行くと、彼女はもう片方の目も失っていた。

「……目が…」

「ゴメンナサイ…ゴメンナサイ…目が見えないの…お肉の用意はできないの…」

「そのお肉はどこに」

 俺は、彼女の心配より肉の心配をするようになっていて、漸くあの美味しい肉が何なのか知ることができる喜びのほうが勝っていた。

「今日は…ね…腕……」

「腕?」

「私の腕…」

 その時、俺は今まで食べていた肉の正体にようやく気がついた。

「今までのは全部…」

「お腹が空いたから食べてたの。でも…私ひとりじゃ食べ切れなくて…」

 俺は彼女を押し倒し、服を捲って確認した。両太腿の肉がない。腹の肉がなく、肝臓も腎臓もない。

「二人で食べたから、食べるところすくなくなっちゃった…ね…」

「…………」

 これでこの、美味い肉を独占できると思うと抑えが効かず、彼女の腕に噛み付き夢中で食べた。

「これで…やっと楽になれる…」


 我に返った頃には、彼女の残りの肉を全て食べ尽くしてしまっていた。


 それでもまだ食べ足りなかった。


 冥府に返った俺は女のグールに噛み付き肉を喰らってみた。

 

 だが、彼女の肉とは味が違った。


 俺は、いったい何の肉を食べたのだろう…




 




 




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