第十一話 看守長
約半年前
西の南寄り、大陸のほぼ中央にあるエルフが国王の国にある中央監獄は、この世界で最も多くの重犯罪者を取り扱う。
西にエルフ、東に月人・北に獣人・南にドワーフが、それぞれ独自の文化を持って住んでいるが、王国は各種族が集まり、それぞれの特性を活かし活躍している。
俺の名はブラッド、この監獄の看守長をしている。
獄長の娘が誕生日でパーティーするからと、王城で行われるエルフ惨殺事件捜査会議の傍聴に代理で出席することになった。
獄長は晩婚で、かなり年下の妻と産まれたばかりの娘を溺愛しているので、よく仕事を休む。
あくまでも、監獄代表傍聴のみで捜査や犯人確保は王国騎士団が行うが、凶悪犯や捜査が行き詰まると、ハンター案件になる。
各種族ごとに治安の維持や法は違う。
獣人はドッグスとウルフが共同で軍を組織しているので、軍が犯人を確保したのち、王国の裁判を経て中央監獄へ送られる。
南は王国騎士団の駐在があるので、西と同じだ。
東は大陸外の島国で独自文化なので、不明だが、王国で月人絡みの事件があった場合は王国の法が適応される。
「満月の夜、Dランクハンターのエルフ男性が何者かに、後頭部を殴られた後、鋭利な刃物で腹部を切り裂かれ死亡する事件が発生しました。遺体は内臓が持ち去られています。犯人の目撃情報はまだありませんが、遺体の近くにバニーライカンの足跡があり、関連を捜査中です」
事件が起きたばかりなので、特に何もなく一回目の捜査会議は終了し、俺は監獄へと帰った。
翌日特にすることもなく、交代時間より少し早く仮眠室へ行き昼寝でもしようと席を立つと、交代の獄卒ノアから
「ブラッド看守長殿〜獄長がお呼びです」と声をかけられた。
「……分かった行く」
「いってらっしゃーいっす。多分懲罰房でお仕置きっスよ」
看守長と言っても普段は他の獄卒と変わりなく、囚人の監視と管理が主で、なおかつS級の重罪人エリアの看守長なので全員独房・完全拘束なので、雑居房担当に比べると、特に何が起こるわけでもなく、時々トラブルを起こし、懲罰房行きになった犯罪者に“反省を促す”くらいだが、俺が看守長に就任してからはそれもめっきり減った。
ノアの言う通りA級犯罪者が独房の移動中看守に暴行を加えたとのことで、懲罰房には凶悪な顔をしたエルフの男が後ろ手に手足を縛られ、口には猿轡をはめられ転がされている。
「囚人番号332これから懲罰を行う」
とりあえず俺は猿轡を外した。
「さて、これで口はきけるな」
「…………」
「囚人番号332だな」
「…………」
男は返事をしない。
『サンダーネイル』
電流の流れる釘を転がされてる男の右足の甲に打ち込むと、男は悶絶した。
「ぐっ…うわぁぁ~」
「痛覚はあるようだな。痛くて喋れないか」
「……うっ…」
「痛みに弱いのに犯罪者とはな。と、言っても、俺の魔法は痛覚に作用し痛みの感度を上げる様、改良してあるが、まだ通常の二倍程度だ」
痛みの感じ方には個人差がある。
「っ…」
「少し痛みに慣れたか…囚人番号332だな」
「さ…さん…に。で…す…」
「よろしい。ではなぜ暴れた」
返事をしたので、少し電流を弱め喋れる様にした。
「看守の俺への扱いが、き…に食わなかったんだよ」
「そうか。以降気を付ける様にと、俺から言っておく」
「そうしてくれよ」
足の拘束を解き、壁に持たれるように座らせ、もう片方の足の甲にも釘を打ち込む。
『サンダーネイル』
「なっ…」
「だからといって、暴力行為は許されない。だから四倍だ」
男は失禁し気絶した。
「……偉そうな割には、たかだか四倍で失神とは情けないな」
魔法を解除し、男を放置したまま鍵をかけ懲罰房後にした。
半年後、惨殺事件は被害者が六人に増え、目撃情報があるにも関わらず、犯人特定には至らなかったので、ハンター案件になり俺が案件を受ける事になった。
「俺を連れてってくださいよ〜」
ノアにせがまれたが、看守長不在時に、副看守長以外で信頼できる懲罰担当はいないので、とりあえず置いていくことにした。
「ウサギ絡みだ、だったらウサギが一番だな」
バニーライカンのクローリー。
ウサギ耳で唯一のSランクハンターだ。
以前は王国にいて、西のダンジョンで荒稼ぎしていたのだが、家賃と食費が高くて金が貯まらないと、北にある自宅に帰った。
今は王国へ通いで時々来る程度だ。
西のダンジョンモンスター討伐に参加した際、一緒になったのがきっかけで仲良くなった。
「まぁ…そうっすけど、たまには外の空気吸いたいっす。ノル兄とアル兄もいるんすから…」
ノル、ノア、アルの三つ子ドッグス通称ケルベロス三兄弟。
三男のノアは両立ち耳で陽気な性格、長男のノルは左折れ耳で真面目な性格、次男のアルは右折れ耳で短気と見分けがつくようになっている。
「オマエが必要になったら呼ぶから」
「了解っす」




