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ほぼ亜人種しかいない世界で、おっさん声うさ耳獣人ショタとドSなダークエルフのバディが活躍する話  作者: しおんえみ
王国連続猟奇殺人事件編

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第十話 扉

 朝、洞窟から分かれ道まで戻り、直進する道を八合目まで登ると巨大な白い扉が見えた。

「ログがあると、ポイントまで移動が一瞬で楽だな」

 扉といっても、どこかに繋がっているわけではなく、扉だけが地面にそびえ立っていて、その右後ろ奥にはダンジョンへの入口になっている風穴があり、冷たい空気が足元を撫でる。

「デカイな」

「俺も初めて見る」

「ブラッド看守長殿〜」

 気の抜けた声のするほうを振り向き、

 ついさっき登ってきた道を見ると、現れたのは頭に大きく尖った黒い立ち耳を持ったドッグスの青年だった。

 ブラッドと同じ詰め襟の服を着ているので、監獄の看守だ。

「ウチの獄卒。ケルベロス三兄弟のひとりノアだ。人間捜索のアシストに呼んでおいた」

「用意周到だな」

 ノアは大きな耳と細くて短い尻尾をピコピコと動かし、人懐っこい笑みを浮かべ挨拶をした。

「どうも〜クローリーのダンナ。今後お見知り置きを」

「……陽気だな」

「元気と、回復治癒魔法が取り柄っす」

 拷問が趣味のブラッドが呼んだアシスタントが、回復治癒魔法得意な獄卒というだけで、二人の関係は察するところがある。

「話通してくれてなかったんで、族長に通行許可貰うのムズかったっす。ログ辿って分かれ道で待ってろっていうから待機してたんスけど、途中めちゃめちゃ蜂蜜のニオイに釣られそうになったっす。甘いモノめちゃめちゃ好きなんで」

「イエローベアーの蜂蜜と肉拝借したから、後でな」

「わ~い。熊肉」

「…………」

 いくら犬が悪食とはいえ、人食い熊肉と亜人を漬け込んだ蜂蜜とは言いにくい。

「ノア途中で人間らしき匂いはしなかったか?」

「しなかったっす」 

 ドッグスとウルフはバニーの十万倍以上の嗅覚を持つ。

「人間の匂いがしない?それは変だ。ドッグスは数km先の匂いまで嗅ぎ分ける。洞窟に扉があるとしても、あの人から人間の匂いがしないなんておかしい」

「その人、亡者かもしれないっすね」

 確かに、族長が定期的に様子見に来るとは言っていたが、人間がひとりで生き延びるには過酷な環境、しかも魔法が使えないし、治癒魔法が効かない人間の老人が、いくら山の知識があるとはいえ、八十歳を超えて生きているのは不自然だ。

「ベッドから少し嗅ぎ慣れない匂いはしたが、人間とバニーの混血のものだと思った。俺は“純粋な”人間の匂いを嗅いだことがない」

「確かに、クローリーのダンナから嗅ぎ慣れない匂いがするっスね」

「…………」

 俺の匂いなのか、ベッドでついた匂いなのか判断がつかない。

「……ダンジョンのほうから、何か来たぞ」

 ダンジョンのからの冷たい空気に混じり黒い霧のようなものが近づいたと思ったら、人型に変化した。その姿は黒い髪と髭がモジャモジャで、浅黒い肌に朱色のローブを纏った中年男性だった。 

「看守長殿に会いに行こうとしたら、こっちだと言われてな」

「知り合い?」

「王国の監獄はダンジョンの下層にある冥府と繋がっていて、極刑を受けた者は、生きたままそこに放り込まれる。あの方は冥府の王だ」

「冥府の王」

 ダンジョンの最下層は地獄へと繋がっているが、下層には知能を持ったグールと魔獣が住んでいる冥界があり、リビングデッドを従えエサ(亜人)を探しに地上に出ることもある。

「看守長には、S級犯罪者を冥府送りにする決まりがあるんすよ」

「なるほどな。今回の犯人はすでに王国の法で極刑が決まっているというわけか」

 要は同情の余地のない犯罪者は、グールや魔獣のエサになるということだ。

「そうっス。エルフ族が何人も殺されてるんで」 

 冥府の王が咳払いをして、話し始めた。

「グール共に不穏な動きがある。最近エルフでも、月人げっとでもライカンでもドワーフでもない美味い肉が出回ってるとの噂がある」

 リビングデッドはライカンの肉を喰わないが、上位のグールはなんの肉でも喰う。

「人間の肉?」

「一体どこから出回ってるんだろうな」

 ブラッドは顎に手を当てる仕草をした。考える時にする癖だ。

「でも“あの人”の話では五十年前の扉で来た人間は二十年足らずで“いなくなった”と言っていた」

「モンスターにやられたとか、遭難って言ってたな」

「山に慣れていない人間が住居からそんなに離れるか?」

「では、誰かが人間を殺してグールに…」

「消えたマーコットかリンクか、件の殺人鬼か」

「推理はいいが、その美味い肉を求めてグール共の動きが活発になっている」

「大量に地上に押し寄せる動きがあるかも知れないということか」

「特に北の下層で噂が立ち、私がグール共に話を聞いたところだ。確かに食べたことのない肉が出回っていて、それを食べた奴がいるそうだ。西のダンジョンの冥府は基本、監獄との連携で犯罪者のみをエサにしている。他のダンジョンの下層にいるグールやリビングデッドは管轄外だ」

「文明的なんだな西の冥府は」

 ダンジョンにいるモンスターは共通している場合はあるが、東西南北のダンジョンごとにその性質や生態系は異なる。特に北は南とは陸続きだが、西とは大きな断層があって陸続きではないので生態系が異なる。

「グールが増え続ければ食料がなくなり、争いが絶えなくなる。定期的に供給されるエサの量よりグールを増やすわけにはいかない。私はできるだけ平穏に暮らしたい」

「食べたこともない肉の味を覚えてしまえば、それ以外は喰えなくなって餓死するか、その味を求めて凶暴化するかだ」

「そうだ。冥府を治める者として、看守長殿には、この件を速やかに解決していただきたいのだ」

「承知いたしました」

 ブラッドが了承すると、冥府の王は霧の様に消えた。

「冥府まで絡んでたんスね」

「さあな。詳しくはこれからだ。いったんフォッグ族長のところまで帰ろう」


 


 


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