第二話 中央ダンジョン下層
旅行から帰ってきてから約二週間。
ブラッドは、獄長に呼び出されていた。
「――何でしょうか?」
どうせロクでもない用件だと、ブラッドが少し不機嫌に答えると、思いのほか真面目なトーンで返ってきた。
「少し、調査して欲しいことがある」
「調査?」
「最近、監獄の地下からダンジョンに入るハンターが不自然に多い」
監獄の地下は、中級者向けダンジョンの下層へと繋がっている。
ダンジョンを一度、最下層まで攻略した者だけが、監獄の下層から再び入れるので、監獄から入る人数はそう多くない。一度中央ダンジョンを攻略した者は他のダンジョンに挑むか、安全な上層から中層で稼ごうとするからだ。
おまけに中央の下層ダンジョンは冥府に繋がっているので、リビングデッドや下級グールの巣窟になっており、武具の素材や鉱石が少なく、あまり人が近寄らない
「それは、確かに珍しいですね」
「だろ。ハンター協会によると最近大躍進している、ハンターチームがあるらしい」
ハンターのダンジョン攻略には単独とチームがある。
単独は個人の三人以下の集まり、チームは五人以上のチームとして登録されている者から低ランクを含め、パーティーは四人以下と決まりがある。
「チームですか。だとしたら、上級者が下級者連れてのランク上げでは?」
「そうだとは思うんだが、協会によると、ランクの上がり方が不自然でな。たった、ひと月でFランクからBランクまで上がったハンターもいる」
「リビングデッドは聖職者や神職以外が倒すと数日で復活するので、ハンターレベル上げにはもってこいですね」
「それが、僧侶のチームでな。冥府から亡者が減ったと苦情が来た」
「僧侶のチーム…」
「お前さんの相棒のクローリーは東出身で神社のトップに最も近い。彼なら、何か知っているかも知れんから、聞いてきてくれないか」
「……ですね。興味が湧いたので、行ってきます」
用件は聞いたので、去ろうとしたら、声を掛けられた。
「東の土産。美味かった」
「喜んで、いただけたようで」
ブラッドは辛党の獄長に東の酒と漬物のセットを土産としてあげたのだった。つまりは約二週間も、獄長と会話をしていないということになる。
「たまには、三兄弟ばかりではなく、自分から日報の報告に来なさい」
「そうします」
「この件、まだ三兄弟には言っていない。まずはお前さんに言うべきだと思ってな」
「…………」
「では、報告を待つ」
「はい」
◇◇◇◇◇
ブラッドはクローリーの家に向かったが、外出しているようだった。
家の鍵は珍しくちゃんと掛かっている。クローリーはハンターをやっているが、報酬で特に豪華な生活をするでもなく、簡素な生活を送っているので“盗まれて困るものもない”からと、普段からあまり鍵をかけたりしない、面倒くさがりな性分なのである。
「珍しいな」とブラッドが呟くと、後ろから「ブラッドさん」と声が掛かった。
「クローリーさんなら、出掛けていないです」
後ろから声をかけてきたのは、ウサギ獣人の族長クレールである。
「いつ帰って来るか、分かりますか?」
「昨日、ちょっと中央に行くから、少しのあいだ留守にするって言ってたよ。東から僧侶の弟さんが来てるから観光かな」
「そうですか」
どうりで、普段は掛かっていない鍵が掛かっているわけだ。
「行き先、何か言ってましたか?」
「特に何も言ってないよ」
「ありがとうございます」
クレールに礼をして、ブラッドが踵を返そうとしたら、クレールは右手に持っていた白い封筒をブラッドに渡した。
「ちょっと待って、出掛けている間にブラッドさんが来たら『渡しておいて』とクローリーさんから手紙を預かってたんです」
「ありがとうございます」
ブラッドが手紙を受け取ると、クレールは去っていった。クレールの姿が見えなくなるまで待ってから、封筒から手紙を出し読んだ。
ブラッドへ
弟が来て、僧侶の大量脱走事件を調べて欲しいと依頼があったので、しばらく家を留守にするかもしれません。
急用の場合、中央ハンター協会の近くにある宿屋に弟と共に宿泊しています。
ブラッドは、獄長から聞いた僧侶のハンターチームと何かしらの関連があるかも知れないと、クローリーから話を聞くため、急いで帰った。




