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ヒト・スーツ

〈花曇過ぎてあつけらかんと照り 涙次〉



【ⅰ】


 先日の「テディベア【魔】」の仕事(ヤマ)は、テオに人間の持つ、性差(ジェンダー)なる不思議なしがらみについての事を、考へさせた。

 で、今日は待ちに待つた「ヒト・スーツ」の納品日。勿論安保さん製作である。

 もうかなり以前の事であるが、女優Uさんの「ヌーハラ」騒ぎの一件、賢明なる讀者は覺えておいでだと思ふ。M製麺、と云ふ讃岐饂飩のチェーンが展開したテレビCMで、彼女の饂飩を啜る音が、余りに汚い、と云ふ聲が、SNS上を賑はせた。その中に、「こんな女性ゐない」と云ふポストあり、テオは、またしても、と云ふ感じで、人間の持つ「性差」について考へさせられたのである。さう云へば(食の事に纏はる性差として)、平均的日本人女性は「メシをかつこむ」と云ふ事もしない。これは男性の専賣特許である。

 猫ならば、雌雄とも同じ食事の仕方をする。そこに性差はない。

 セックスについても、發情期を除いて、雌猫雄猫、平等に「関心」を持たない。その代はり、發情期には、猫たちは一様に「セックスの塊」となる...



【ⅱ】


 テオがSNSでさう云ふ發言をしたら、巨乳猫娘のイラストを送つてきた者もあつた。これは、をばさん・砂田御由希がかつて巨乳だつた、と云ふエピソオドで詳しく語つたが、テオの巨乳好きを知つての「プレゼント」であらう。巨乳好きと云ふのは、猫の性癖として、あり得ない。更に、猫なら自分のやうに生産的事業に携はつたりはしない。テオは谷澤景六としての作家業と、テオとしての斬魔業と、二つも生産に関はる事に、首を突つ込んでゐる... 自分は、余りに、猫⇔人間の間を行き來し過ぎてゐる。

 谷澤景六、なかなか芥川賞に手が届かないのも、實はそれに起因してゐるのではないか- 人間としての(セックス)の問題を、自分は描けない。いつそ、人間としての視坐を獲得してしまつたら...


 長くなつたが、それが安保さんに「ヒト・スーツ」を發注した理由なのである。



【ⅲ】


 この、「ヒト・スーツ」を装着すれば、テオ獨自の猫人間的狀況から、一氣に人間的あり方にジャンプ出來る-「野蛮な」猫では無理な事を成し遂げる、謂はゞ、テオ専属のギアだつた。

 谷澤景六である為、テオは猫としての視坐を捨てやうとしてゐた。それは、或る種の危険を孕んだ行為だつた。



 ⁂  ⁂  ⁂  ⁂


〈猫猫と云はれる内が華なのか猫である時人である時 平手みき〉



【ⅳ】


「ヒト・スーツ」を着てみた結果は... 惨憺たるものだつた、と云はざるを得ない。まづ、絶え間ない吐き氣、にテオは襲はれた。人間としての目を、まるで躰全體が拒絶してゐるかのやうに... そして、でゞこ、もはや戀猫ではないのである。それに對して、ノスタルジアも抱けない自分、つて何なんだらう、と云ふ慚愧の念(實際、猫として抱いてゐた彼女への愛は、別のチャンネルに切り替はつて -おや、可愛い猫ちやんだこと、と云ふやうな- しまつてゐた)が湧く...


 テオは急ぎ「ヒト・スーツ」を脱いだ。安心感、幸福感、が彼を包む。



【ⅴ】


 自分はやはり、テオ、なる怪物なのだ。人間寄りにしか物事を捉へられぬ、それでゐて猫である自分を捨てられぬ、さう云ふ怪物(モンスター)なのだ- テオは、折角の安保さんの良心には縋れなかつた、自分を呪つた。

 だが、これでいゝのだ。とバカボン・パパの云ふ通り、自己肯定は、智慧への近道である。テオは取り敢へず、それに従ふ事にした。



【ⅵ】


 今回は、冒険活劇は一旦お休みにして、テオの悩める心に寄り添つてみた。作者としては、当然すぎるケアである。が、詰まらなかつた方、ご免なさい。では。



 ⁂  ⁂  ⁂  ⁂


〈蠅生まれさて何せむかこの世にて 涙次〉



 また。


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