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第六話 方針

「もう朝か」


 カーテンを開けると、雲ひとつない爽やかな青空が見えた。


「今日も1日頑張るか」


 そうして、学校の準備などやることをやって、登校する。


(もうそろそろかな)


 僕は、スマートフォンを取り出してメッセージアプリを起動する。


「今日はどうしますか」と、入力すると白雪宛にそれを送った。


 昨日交わした約束を今日から果たしていく。


(思ったよりも長くなるかもな)


 昨日の様子からすると、当初の予定よりも長引きそうだと僕は考えている。


(お守りを渡すまで、手が震えていたからな)


 白雪さんが自覚しているか分からないが、家に近づくにつれほんの少しだが手が震えていたし、足取りもだんだん重くなっていた。


(結構ギリギリのラインかもしれないな)


 昨日の白雪さんを見る限りは、そう判断してしまうほど不安定だった。


(しかしながら、学校ではよく隠し通せているよな)


 白雪さんはクラスの中心人物の1人だ。ソロプレイをしている僕が気が付かないは、当然としてもよく関わっている人物なら何となく察していてもいいはずだ。


 だが、白雪さんの家庭が厳しいと言った情報は聞いたことは殆どないし、配慮しているような感じもなかった。


(誰かできる協力者がいるのか、単純に僕の察しが悪いのかだな)


 後者であるならばそれなりにショックだ。


 基本的には関わらないとはいえ、授業でグループワークをする際など、関わらないいけない時もある。


 その時に、地雷を踏んで面倒なことにならないように、メイングループの動向にはそれなりに気を付けていた。


 そんなことを考えていると、スマホが振動するのを感じる。


 取り出して確認すると、白雪さんから返信が帰ってきていた。


「お願いします。それと、門限は6時になりました」


「分かりました。どうするかについては、あとで送ります」


 概ねこちらの想定通りの展開になった。


 門限がさらに厳しくなることも、想定自体は出来ていたので大きな驚きはない。


(何かしら罰則はあると思ったけど、厳しいな)


 僕が向き合わないといけない問題が悪化することはよろしくない。


(門限が厳しくなるだけならいいけど、他にもありそうなんだよな)


 こういう厳しい系の人なら、門限を厳しくするだけで終わるとは思えない。


 スマホを没収するとか、勉強においてイメージが悪いものを、この機会に排除しようと考えてもおかしくない。


(分からないことだらけだな)


 僕は、白雪さんのことを殆ど知らない。


 今まで関わってこなかったのだから、当然のことなのだが、今後は白雪さんと関わっていくのだから、それは許されない。


(特に学校においての白雪さんの人間関係は把握しておかないと)


 白雪さんは、クラスの中心人物の1人であると共に、高嶺の花と言ったところもある。


 簡単に言えば、ワンランク上の人間で犯してはならない神聖なものとして、扱われているところが若干ある。


 そんな白雪さんと、息抜きをするために2人で過ごすことが周囲に知られれば反感を買うのは間違いない。


 負の感情を抑えることは難しい。


 僕たちの関係がクラスの全員に知られれば、大なり小なり問題は発生する。


 その問題が僕だけで済むのであれば、ソロプレイの特権である周りの影響を受けづらいを利用して、ほぼノーダメに出来るが、世の中そこまで甘くはない。


 僕が回避しなければならないのは、この息抜きの関係が、白雪さんにとって負担にならないこと。


 そのためには、白雪さんの学校においての人間関係を正確に把握して、上手く対応していく必要がある。


(白雪さんについて、敏感なやつとか何かしらの行動をしそうなやつはピックアップするとして、最も重要なのは協力者だな)


 協力者がいるかいないかは、まだ不明だがいるのであれば、最優先で対応する必要がある。


(協力者がいるとしても、白雪さんにとって非常にデリケートな問題、人数はかなり少ないはず。)


 現在の予想では1人、多くて3人程度だろう。


(問題の特性上、協力者に僕たちの関係を隠し通すのはほぼ不可能。早く見つけて協力関係になる必要がある)


 白雪さんが抱える問題の特性上、協力者は白雪さんの状況を事細かに知れる人物である。


 そのため、どの程度知れるのかにもよるが、長期間隠し通すのは困難だろう。


(そこら辺を直接白雪さんに聞くのが、一番手っ取り早いだろうけど、情報が少ない今、問題を大きくするようなことは避けたい。間接的に聞くか)


 僕は、白雪さんに帰りの後について、他の人に聞かれたらどのように対応するつもりなのかをメールで聞いた。


「連絡ありがとうございます。


 私としては、鈴木くんとのこの関係を知られることは好ましくないと考えています。


 なので、出来るだけ気が付かれないように、私は対応するつもりです。鈴木くんの方もよろしくお願いします」


 白雪さんの返答に、僕は分かりましたと返して、再び考察する。


(秘密にするということは、白雪さんの事情が多くの人に知れ渡っている可能性は低いな。


 しかし、出来るだけという言葉が気になるな。


 そういう言葉を活用するときは、隠し切れないと思っている時が多い。つまり、白雪さんには隠し切れないかもと思う要因があるということ。


 それが、協力者となりうる、親しい存在のことなのかは調べていく必要があるな)


 色々な可能性を考えることはできるが、どれも考察の域きを超えない。


 ただ、基本的には隠す方針で進めて行くと分かったので、今はそれで十分だろう。


(この関係は、僕たち2人だけしか知らないことを前提に、バレた時に問題にならないように立ち回っていこう。


 特に協力者には注意を払わないと)


 協力者視点では、僕は信用にならない奴であり、自分が必死に守ってきた白雪さんの平穏を壊す奴かもと、良い感情を抱きにくいことは、簡単に想像できる。


 約束を果たす上で、白雪さんの親しい人との関わりや協力者にも注意を払うのは必須であり、険悪な関係は避けないといけない。


 そのためにも、自分が信用されていないこと、近しい人から見れば部外者に等しい存在であることなど、自分の現実的な立ち位置を把握すること。


 途方もない努力によって積み上げられた人間関係に敬意を示すと共に、その価値を正しく理解して適切に対応することが求められる。


(久しぶりだな、ここまで頭を使って過ごすのは)


 僕は、白雪さんがいる一軍陽キャグループでやっていけるタイプではない。


 僕は息を吸うかの如く、誰かを思いやる事は出来ないし、気遣いも出来ない。


 こうして必死に頭を動かしてギリギリの、ダメな方の人間だ。


(余計なことはせずに見捨てるのが賢い選択だろうな・・・・・・)


 当初の想定である一、二回程度なら、ここまでする必要はなかった。一瞬の関わりなんてすぐに忘れ去られる。


 先ほど思った賢い選択のはずだった。


 しかしながら、当初の想定から外れて長期化が考えられる現在、僕が取ろうとしている行動は長期化に向けての対策だ。


 賢い選択で考えるならば、どうやって打ち切るべきかを考えるべきだ。


「貴方は優しすぎるの。そういう人は損するばかりだから、気をつけなさい」


 母がたまに言ってくる言葉が頭をよぎる。


(・・・・・・言いたいことは分かっているんですけどね、僕は、どうすればいいのか分からないよ)


「今答えを出すべきものでもないし、無視無視。今を集中しないと」


 そうして、僕はいつも通り学校に向かうのであった。

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