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第五話 ライフで支払う

「それでは要求を履行していこうと思うんだけど、最初は今日どうするのかを決めていきたいけど、いいかな?」


「うん、それで大丈夫」


 流れに任せてだと、僕は失敗することが多いので、取り敢えず今日のゴール時点、どのように過ごして終わりにするかを決めることにした。


 ここで必ず決めないといけないことは、白雪さんは家に帰るか帰らないか問題である。


 白雪さんは、帰りたくないと言っていたが、総合的な視点から見て僕は家に帰るべきだと考えている。


 白雪さんの家が、育児放棄するようなヤバいところなら、帰らない方針で考えてもいいが、そういった重い事情がない限りは帰るべきである。


 もちろん、理由は色々とある。


 単純に、家に帰らなくても過ごせる場所が用意できないというのもある。


 僕の家は、ライトノベルの主人公のように一人暮らしではなく、普通に家族が住んでいるため、不可能。


 ホテルや僕の祖母の家に泊まるなど、無理矢理に用意することは出来なくもないが、それは最終手段だ。


 それに白雪さんは、荷物などは全て家に置いてきている。そのため、今日をやり過ごしたとしても白雪さんは一度は、家に戻らなければならない。


 そうと考えると、帰らない選択肢は、問題の先延ばしだけではなく、問題の悪化を招く可能性が高い。


 これらの理由から、できるだけ帰ってはもらいたいのだが、状況によるところもかなりある。


 しっかりと白雪さんの状況を理解した上で判断していく必要がある。


「まずは時間から決めたいです。朝まで遊ぶコースもありますし、後2〜3時間ぐらいに適当に過ごすのもいいと思うのですが、白雪さんはどう思いますか?」


 白雪さんの問題について、状況を知りたいが直接聞いていくのは、精神的に大きな負担になる可能性がある。


 故に、いつ家に帰るかではなく、何時まで遊ぶかといい、間接的に聞く形になるように心掛ける。


 また、白雪さんに時間について考えてもらうのではなく、こちらが提案して選択させる形にすることも重要だ。


 白雪さんの今の立場を考えた時、親子喧嘩、僕をどの程度付き合わせていいのか、精神的に不安定な状態など、思うがままの意見を言うには、高いハードルがいくつも存在する。


 そのような状態の白雪さんに、自由に言ってくれで率直な意見を話してくれる可能性は極めて低い。


 なので、こちらが踏み込みハードルを下げる必要がある。


 今回の場合なら、朝まで遊ぶと先に提案することである。

 

 冷静に考えるならば、キモくてやばい奴と思われても仕方ない発言だが、もし、白雪さんの状況が家に帰りたくないぐらい、最悪の場合なら渡りに船になる。


 最悪の場合でなくても、考えある限りの最大の要求をしてもいいので、選択に余裕が生まれるはずだ。


 もちろん、そこまで状況が悪くなくてキモいやつだと思われても、白雪さんには二つ目の普通の提案にして逃げることができる。


 自分の印象と立場を悪くなるかもしれない方法だが、僕において最優先すべきことは、白雪さんが最悪の状況になっていないか見逃さないこと、回避することである。


 それに、いつでも取り返せる自分の印象と2度と取り返せないとの、どちらを優先するかといえば後者を選ぶべきだと、僕は失敗から学んでいる。


 そういう訳で、僕は白雪さんの回答を待つ。


 白雪さんは即答はしなかった。


 少しの時間、悩んだ後に自分の意見を話してくれた。


「・・・・・・すいません。私には分からないです。鈴木さんに任せたいです」


「分かりました。僕の方で決めるとして、一つだけ確認したいのですが、門限てあったりしますか?」


 僕がそう聞くと、白雪さんは若干目を下に向ける。


「門限は・・・・・・あります。7時までには帰るように言われています・・・・・・」


「なる・・・・・・ほど」


(白雪さんの家がどんな感じかは分かったな)


 高校2年生で、門限があることも少し思うところはあるが、時間が7時までは厳しすぎるの領域だ。


 言い淀んでいた白雪さんも、その自覚があるのだろう。


(清廉潔白か、周囲の理解と本人の性格もあったのだろうが、よくやってきたな)


 学校の白雪さんは、クラスでも人気の人物で女子グループでも中心よりの人物だった。


 生真面目すぎる性格では、その地位には辿り着けない。厳しい環境でありながらも、クラスでは高い地位を獲得するのに相当な努力を必要だったはずだ。


(さて、ここからどうするのかだな)


 背景自体は大分見えてきた。


 厳しすぎる環境に、目撃した時に白雪さんが言っていた言葉、現在のクラスの地位に、白雪さんの性格。


 これまでの態度や対応なども含めて考える。一つの答えが思い浮かぶ。


(初めての反抗期・・・・・・なのか)


 あり得ない話ではない。


 清廉潔白、文武両道というイメージが本当であり、カーストトップになれるほど、物分かりが良かった場合、厳しい環境でも上手くやりくり出来るかもしれない。


 そうして上手くやりくりした結果、この年まで怒られる経験があまりなかったのと、我慢して蓄積してきた不満が限界を迎えたとするならば、自暴自棄になるのも分からなくはない。


(いや、もうちょっと違う気がするな)


 これまでに、白雪さんから親についての暴言は聞いていないし、明確な反抗の意志を感じる言葉も聞いてない。


 あるとしたら、些細な反抗。


 身体を自由に使っていいことや、僕に何時まで遊ぶか任せることなど、人任せな反抗と言ってもいいかもしれない。


(聡明さが、逆に仇になったのかな?)


 恐らくだが、聡明な白雪さんは激情に呑まれることなく、客観的な視点で物事を俯瞰できる。


 俯瞰できるということは、次のようなものが発生する。


 頭で理解できていても、納得はできないというやつだ。


 現在の白雪さんの中には、これまで通り我慢をして荒波立てずにやり過ごすべきだという考えと、もう我慢ならないと、相手を後悔させようとしている気持ちが衝突している。


(そして、それは拮抗している。だからこそ、判断を他人にさせようとしている感じか?)


 情報がまだ少ないため断定はできないが、大きなズレはないはず。


(つまり、僕の選択が白雪さんの親子喧嘩に大きな影響を与える可能性があると言うわけだ)


 そうなると僕の選択肢は一つだ。


「分かりました。それなら本日は門限に間に合うまでということしましょう」


「うん・・・・・・分かった」


 僕の決定に、白雪さんは複雑そうな表情で答える。


「時間も決まったことですし、今日やることも決めたいと思うのですが、白雪さんはスイーツなどはお好きですか?」


「う、うん。好きだよ」


「それは良かった」


「因みにまだ食べれますか?」


「た、食べれるけど」


 僕は店員を呼ぶボタンを押す。


「よう、何か注文か?」


 押してすぐに田中さんが現れる。


「彼女にこの店でオススメのスイーツを、それともう一つ。ローストビーフパンを」


「ふーーん、分かった。期待して待っておけ」


 田中さんは、こちらの考えを察したようで張り切って厨房へと向かった。


「鈴木くん、これってどういう・・・・・・」


「僕からの投資だと思ってください。約束を守って貰うためのね」


 僕が選択したのは、美味しいスイーツで機嫌を良くして何とか耐えてもらうだった。


 僕には、一発で全てを解決する方法は思いつかない。出来るのは、今日をなんとか凌いでゆっくりと白雪が安定するまで地道に付き添うだけだ。


 つまり、最初の方針通りということだ。


 白雪さんが爆発しないように、息抜きしてもらう。


(僕に気が聞く言葉を言えるほどの実力はない。だから、(ライフ)を支払って美味しいスイーツでなんとかするしかない!)


 白雪さんには、カッコつけて平気な表情で言ったが、この(ライフ)を支払う行為は高校生の僕にはかなりの痛手だ。


 どのぐらいの痛手かというと、ゲームソフトが一つ買えるほどにはなるかもしれない。


 いや、白雪さんの食欲がヤバいと、倍プッシュになるかもしれない。


「はい、フラワーパンケーキだ。」


「これは・・・・・・すごいですね」


 田中さんが持ってきたのは、色とりどりの果物とふんわりとしたパンケーキ、後ろのはホイップアイスがあるものだった。


(なんだ、この圧倒的な高級スイーツは、こんなものがあったのか)


 スイーツはあまり食べないため全く知らなかった。


「す、鈴木さん、本当に食べてもいいんですか?」


「勿論、僕のことは気にせず食べていいよ」


「あ、ありがとうございます」


 白雪さんもこのレベルのものを食べるのは中々ないのか、目を輝かせながら一口一口美味しそうに食べる。


 目的は達成はできそうだ。


「田中さん、ありがとうございます」


「おうよ、期待に応えられて何よりだ!」


 僕は、田中さんに感謝しつつも決して会計の紙は、レジまで見ることはなかった。

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