第四話 避難先
「お願い事?」
僕の言葉に、白雪さんは多少の警戒をしたが、何もしなくて良いと言った時よりかは乗り気の反応を見せた。
「はい。ただ、内容を言う前に二つほど聞きたいことがあるのですが、いいですか?」
「構いません」
ここから僕は、少しだけ踏み込んだ質問をする必要があるので、慎重に言葉を選んでいく。
「あまり詮索するつもりはないんだけど、喧嘩の件て今日中に解決できる感じかな?それとも結構長引きそう?」
「・・・・・・分かりません。」
「分かった。答えてくれてありがとう」
不安そうに答える白雪の姿に、この質問はこれ以上聞いてはいけないと判断して切り上げる。
「二つ目だけど、ここで別れた後はどうするかとか予定はある?」
「・・・・・・どうしましょう。家には・・・・・・帰りたくないです」
「なるほど。ありがとう」
こちらの予想以上に、情報を得ることができたので成果としては上々だ。
多少のズレはあるが、これなら案1の方で進んでも問題ない。
「それじゃあ、頼み事なんだけど一つ目は、白雪さんが家に居たくないと思う時間の相手を僕にさせて欲しい」
「居たくない時間ですか・・・・・・」
「ああ、別の言い方をするなら避難先として活用してほしい。
期間は、取り敢えず白雪さんの親子喧嘩が解決するまで。解決したの判断は、白雪さんが判断して僕に連絡すること。
期間中は、朝と学校の終わりの2回、どうするか連絡をする。そこで白雪さんが望めば僕が相手をする」
「・・・・・・鈴木さんのメリットはなんですか?」
「メリットというか、理由は2つある。
一つ目は、次のお願い事において白雪さんに余裕がないと意味が無くなってしまう。それを回避する為に、軽く相談に乗ることや愚痴を聞く程度しかできないけど、しっかりと息抜きをしてもらいたいんだ。
二つ目は、僕が行きたいなと思っていたところを消費するため。1人だと行く気になれないところがいくつかあったからね。ついでに消費したいと思って。
これが僕のメリット。大丈夫?」
「・・・・・・二つ目のお願いことを先に聞いていいですか」
「うん、構わないよ」
(結構、警戒してるな)
さりげなく二つ目のお願い事を聞く前に、一つ目のお願い事を承諾させようとしたが、しっかりと回避された。
回避されたことについては、問題ではない。むしろ、しっかりと警戒することが出来るレベルまで持ち直しているということなのだから、喜ばしいことだ。
「それでは、二つ目のお願いことなんだけど、学校にいる時に僕が困っていたら助けてほしい。
同じクラスだから、分かっているかもしれないけど基本的に1人だから、何か不味いことがあるとヤバいんですよ」
基本的に僕は1人のことが多い。カッコよく言うなら栄光ある孤立状態である。
ただ、勘違いしてほしくないのはヤバい人物だから1人になっているというわけではない。積極的に関わろうとしていないため、1人である。
とにかく、1人でいるとミスをした時に助けてくれる人がいないため、色々と大変なのだ。
「なるほど・・・・・・確かに鈴木くんは1人のイメージがありましたし、最初の方の提案も、私が余裕がないと助けてもらえなくなるので、意味がなくなってしまうと言うのも納得ができます」
どうやら納得はしてもらえたようだ。
「僕の提案はこれで終わりだけど、これで大丈夫そう?」
僕の問いに、白雪さんは手を顔に当て考える。
(さて、どうなるかな。僕的には、断ろうが受け入れようがどっちでもいいんだけどね)
断るなら断るで、先ほども考えている通り持ち直しているということになるし、これ以上強引に一緒にいようとするのは、逆効果である。
それに、これが現在できる最大限であるため、断られたら僕にできることはない。
受け入れられても問題ない。
一見、強引な提案に見えるが、どちらも白雪がやりたくないと思うのであれば、やめれるようになっている。
僕の予想では、一つ目の要求を実施する回数は、多くて二、三回程度であり、なんなら明日にも大丈夫だと言われてもおかしくない。
一応、引け目を感じないようにと、黙っている代わりの代償を支払っているという安心感を与えるために二つ目の要求を用意した。
二つ目の要求は、比較的簡単だし、不自然感はない。何より、しっかりと恩を返したと体感しやすいだろう。
(ぶっちゃけ、独り身11年目だから、大抵のことはどうにでもなるんだけどね)
誰も助けてくれないは、僕においてはデフォルトである。
あまり嬉しいことではないが、そのおかげで対応力や基礎力は強制的に鍛えられ、今では大抵のことはなんとかできる。
故に助けてもらうようなことはほとんどない。
(まあ、そこら辺はうまくコントロールするか)
様子を見て、わざとピンチになって助けてもらうこともできる。
適当に、消しゴムや鉛筆でも忘れたことにして借りればいい。
白雪が何もしなくても、こちらが何も言わなければ問題はないし、いつでも助けてもらえる安心感で十分ありがたい、言うこともできる。
どちらの提案もそのような理由があるからこそ、どちらに転んでも大きな問題はない。
若干、断る選択を取られると無理して断っていないのかを心配する必要があるため、大変だなと思うぐらいである。
僕が軽く今後の展開を考え終わると同時に、あちらもどうするのか決まったらしい。
「わかりました。その二つの要求を受け入れます。これからよろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いするよ」
そうして白雪さんと僕のちょっと変わった関係が始まる。
この時、僕は一つの誤算があった。
それは、僕の想定を遥かに超えるほどこの関係が長期間続くことであった。