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第三話 提案

「おいしい」


 ブルーベリーのデニッシュを食べた白雪さんは、ポツリとそうこぼした。


「それは良かった」


 白雪さんの方を見ると、頬が上がり目も若干輝いているように見えた。


(大分持ち直してきたかな?)


 そんなことを思いながら、僕もローストビーフパンを食べる。


(うーーーーーん、美味しい!サイコーーー!)


 厳選された山わさびのピリ辛感と、もちっとしたパンの食感に噛み合うように絶妙な薄さのローストビーフ。


 至福の時である。


 ああ、注意しないと一瞬で食べてしまいそうだ。


 ロースビーフパンに思いを馳せようとした時だった。白雪さんがこちらをジッと見ていることに気が付いた。

 

「何か、僕についていました?」


「うんうん。ただ、気に入った理由がよく分かったなて、思っただけ」


「ただ、美味しいと思って食べているだけなんですけどね」


 そこら辺に関して特に意識していることなどはないため、なんとも言えない気持ちだ。


 その後も僕たちはパンを味わった。


 パンの美味しさと強引な展開だったこともあるのか、親子喧嘩について大分意識が薄れているようで、学校と時と同じぐらいの落ち着きは取り戻したように見える。


(話をしても大丈夫そうだな)


 先程のような極端な行動をする可能性が低いと思った僕は、親子喧嘩についての話題を切り出すことにする。


「パンも食べ終えたことだし、本題に入りたいと思うんだけど大丈夫かな?」


「う、うん。大丈夫」


 白雪さんの表情が若干曇ったが、先程までの自暴自棄と言った感じではない。


「結論から先に話すけど、みんなには言わないし、その為に何かしてもう必要もないと僕は思っているよ」


 黙っているし、何もしなくていいと白雪さんにとって都合のいい回答をしたのだが、反応はイマイチ。


 白雪さんはどうすればいいのだろうといった表情をしている。


(単純にこちらを信用できなくて困っているとかもありそうだけど、どちらかといえば()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()())


 パン屋に着くまでに、僕はあの無茶苦茶な提案について僕は考えていた。


 身体を自由に使っていいなんて、要求に対して過剰すぎる見返りだ。


 それだけ言わないで欲しいからと解釈することは可能だが、身体を自由に使っていいことを僕が受け入れ、行使した場合、親子喧嘩以上の爆弾を抱えることを容易に想像ができるはずだ。


 いやもっと言うなら、本能的に忌避するはず。


 しかしながら、白雪さんはその壁を突破して提案をしてきた。


 つまり、あの提案をした時の白雪さんにはそのデメリットを上回るメリットがあった。もしくは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()であった可能性がある。


 例えば、親子喧嘩によって、どうしようもなく自分をメチャクチャにしたくなった。だから、あんな提案をすることでメチャクチャになろうとしたとか。


 どうしようもなく上手くいかないことがあったり、自暴自棄になった際に、そう言った思考になり得るし、理解もできる。


 もし、そうであるのならば、あの提案は僕に対する見返りというよりかは、自分のために僕を活用しようとしたと考えることもできる。


 どちらなのか真意については分からないが、反応を見ている感じ、僕の考えが大きく外れている訳ではなさそうだ。


 そうなると、ここからは僕の選択が重要になってくる場面だ。


 強引に事を進めたこともあって、話の主導権はこちらが握っている。だから、こちらが見返りはいらないと押せば、白雪さんは高い確率で承諾する。


 そうなれば、僕はこの件からドロップアウトすることができる。


 しかし、この選択肢を取るならば、白雪さんに対してどうでもいいと割り切る必要がある。


 もし、この選択肢を取った場合に考えられる最悪のシナリオは親子喧嘩が悪化して白雪さんが落ちぶれていくことだ。


 この選択は、僕においては問題は解決するが白雪さんの問題は解決するわけではない。上手く解決する可能性は十分あるが、上手くいかない可能性もある。


 上手くいかなければ、僕と同じようなことを他の人にする可能性もある。


 白雪さんの整った容姿と性格で僕と同じようなことを言われた場合、客観的に考えて断る選択肢を取れる人は多くない。


 次は、あまりよろしくない結果になる可能性は十分にある。


 まあ、そういった選択や結果に対して、他人である僕がどうこう言える立場でないし、善悪を決める立場でもない。


 選択や結果について、何かを言おうとは思わない。しかしながら、その選択や結果に至るまでの過程において、後悔がないようにしっかりと考えて決めて欲しいとは思っている。


 そう言ったことも含めて、割り切れる必要がある。


 まあ、割り切れないのだが。


 白雪さんとは同じクラスである。だから、白雪さんに何かあれば、どうにかできるチャンスがあった僕は、自分の考えや義務感に責められ、それなりに心のダメージを負うだろう。


 割り切るには、僕においてはリスクが高すぎる。


 そのため、僕は別の選択をする必要がある。


 しかしながら、僕に親子喧嘩の仲裁をする力はないし、大きな助けとなれる力があるわけでもない。


 自分はそれほどまでに無力な存在である。


 ならどうするべきか。答えは簡単である。


 ()()()()()()()()()()()()()()()()


「やっぱり、なんの見返りもないのは不安だよね。なら2つお願い事があるんだけどいいかな?」


 そうして僕は、自分ができる最大限をする為に提案をするのであった。

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