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第十三話 安定

 あれから3週間が経過した。


 ここ3週間で大きな事件などはなく、極めて平穏な日々が続いた。


 僕の生活も変わらなくとも言いたいところだが、そうではなかった。


 少しばかりではなく、それなりに変わっていた。


「おはよう」


「おはよう」


 白雪が座る前にこちらに向かって挨拶をしてきたので返す。


 まだ朝早いこともあって教室には僕たち2人しかいない。


「今日は現代文のノートを回収するんだよね?ほら、一緒に行こ」


「うん、分かった」


 僕は立ち上がり、白雪2人で朝の日課をこなす。


 ここ3週間の変化とは、1人の時間が格段と減り、白雪との時間が増えたことだ。


 週3回は、白雪は僕の時間に合わせるように早めに学校に来るようになった。


 そして、僕が朝早くからしているプリント配りなどをして、朝会が始まるまで雑談をするようになった。


 変化はこれだけではなく、昼休憩以外は何かと白雪と話すことが多くなった。


 学校で白雪との関わりが増えたことで、面倒なことが起きないかと心配したが、特になく。


 予想以上に反発が少ない形になった。


 学校での会話の殆どが勉強など真面目なものばかりなのが、大きかったと僕は考えている。


 ちなみに、勉強の話と言っても基本的には白雪に教えてもらう形となっており、授業中に見つけた苦手なところをよく助けてもらっている。


 英語の授業の前では、「単語覚えてる?覚えてるなら言ってみて」と白雪に言われるのがデフォルトになりつつある。


 そんな感じに、学校での生活も変わったが学校以外での生活も変わっている。


 まず、放課後に約束に関してだが、週に2回ほど遊ぶようになった。


 いつもとは違う場所に行って楽しむか、白雪に紹介した隠れ場所で白雪の家庭関係の愚痴など教室で話せないことを話すを交互に繰り返している感じだ。


 そんな感じで白雪から色々聞いて分かったことがある。


 それは両親揃って白雪に厳しい訳ではないということ。


 白雪の話を聞いている限りだと、厳しいのは母親の方で、父親は優しく本人の自由にさせてあげたいと考えているようだ。


 学校から遊ぶことなく帰るようにするのではなく、門限があることや、スマホの完全な取り上げがされていないなど、所々で緩いところがあるのは父親のお陰らしい。


 そんな父親がいるなら、どうしてここまで問題が悪化しているのかと思ったが、白雪の父親は仕事に忙しく家を空けることも多いのだとか。


 そのため妻に大きな負担を掛けていることや、面倒を見れていないこともあり、白雪の教育方針などには強く口出しが出来ない状態らしい。


 そんな感じで今の状況がある。


 僕としては、全員が敵ではないことに安心する。


 あと変わったことは、白雪からメールが来るようになったことだ。


 勉強の内容が多いが、僕が貸しているお守りについて写真や話も多い。


 とても気に入っているようで、放課後の雑談の時にもほぼ毎回話している気がする。


 こんな感じで今のところ、白雪との関係は極めて良好な状況である。


(現状を維持しつつ、改善していかないとな)


 現在の状況は、白雪が変化した環境にうまく適応した状況であり、依然厳しい家庭環境など解決していない。


 約束の内容は、完全な解決ではなくても、問題を緩和させることにある。


 その為にも、今の状況には満足してはならない。


(コツコツ準備はしてきているけど、果たして上手くいくかな)


 不安ではあるが、今できることをするしかない。


 そうして学校での時間が終わり、放課後になる。


 今日は週2日の約束の日であり、今回は隠れ家でダラダラ話す方になる。


 順調だからこそ、警戒を緩めることはなく、いつも通り尾行対策で離れたところで合流する。


「今回は尾行されなかったね、変装姿を見たかったのに」


「完全に楽しんでますね」


「あはは、いつもとは違う姿を見るのが新鮮でもっと見たいと思っちゃって」


「気持ちは分かりますよ、だんだん変装がすごくなっていますから」


 山本さんたちの尾行は不定期だが幾度か行われている。


 悪ふざけなところもあるのだろうが、回を重ねるたびにより凝った尾行になっている。


 おじいちゃんおばあちゃんに変装したときは、ここまでやるかと若干引いたのを覚えている。


 因みに凝った変装について、様々な工夫をして撮った写真を白雪に見せたら大変好評らしく、尾行されることが楽しみになっているらしい。


(白雪って意外とアグレッシブだよな)


 冷静でお淑やかなイメージがあったが、実際はそんなことなく、どこでもいる普通の女の子と言った感じだ。


「鈴木くん、今日は本と文房具を見たいです」


「うん、いいよ。それじゃあ、今日は2階を中心に回ろうか」


 そうして僕たちは、2階を中心に見て回ることになった。


 白雪がどんな本に興味があるのか、以前の僕なら勉強本と考えていたが、3週間も一緒にいればそれが違うことに気がつく。


「ファッション関係はここから右に2つ隣の本棚にあるよ。編み物系は一番奥にあったよ」


 今回がはじめて本屋にくることもあって目的の本がどこにあるのか、右往左往しながら探している白雪に伝える。


「ありがとう!それにしてもよく私が探している本がわかったね」


「いつもファッションや編み物について話しているからね、流石にわかるよ」


 編み物は小さい時に興味があったので、ある程度分かっているが、ファッションについてはあまり興味がなかったため、裏で会話についていけるぐらいには勉強した。


「ふふ、ありがとう」


 満面な笑みでお礼を言うと、白雪は僕の手を握り連れて行く。


 目的の場所についた白雪は目をキラキラ輝かせながら、色々と手に取ったりする。


 僕はその様子を少し後ろから見守る。


 暫くして一冊の本を手に取ると、レジに行こうとしたが、何か思い出したのか、こちらに向かってる。


「鈴木くん、この本を勉強本に誤魔化せないかな?」


「そうだね・・・・・・」


 白雪の質問に僕は思考を巡らせる。


 誤魔化すというのは、間違いなく母親から隠すためだろう。


 厳しい白雪の母親がこのような本を見つければ怒ることは確実だ。


 案が思いつかないわけではないが、白雪母の監視方法などがイマイチ分からないこともあって、どれも不安要素が残る。


「本自体を誤魔化すだけならカバーをすれば大丈夫と思うけど、家に隠すとなると放置は危険性が高いかな。


 絶対にバレたくないなら、自分の鞄の中に入れるとかして常に身近にあるようにするか、白雪が良ければだけど、僕が保管しておいて必要な時に持ってきて渡す方法もある」


 無難な案をいくつか提案すると、白雪は少し考え込む。


「・・・・・・鈴木くんがいいなら、最後の案がいい」


「なら、決定ですね。大切に保管させてもらうよ」


「ありがとう」


 そんなこんなで、本屋と文房具屋で買いたいものを買って、いつもの場所で少しだけ雑多すると解散の時間になる。


「いつもありがとう、今日もとても楽しかった」


「それは良かった。僕も白雪との時間、楽しかったよ」


 白雪のお礼に何事もないように言った。


「・・・・・・鈴木くん、変なところで鈍感だよね」


「え?」


 いつも通りの対応をしたつもりなのに、どこか拗ねたように言われ驚く。


 そして、白雪にどういうことなのか聞こうと振り向いたが、その時には白雪はこちらに背を向けて歩き出していた。


「また、明日」


「・・・・・・また明日」


 こうして、白雪に若干振り回されながらの今日という1日は終わる。


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