第十二話 秘密の定例会議
「もうそろそろか」
先程までしていた作業をやめて、鍵付きの戸棚にしまっているUSBメモリを取り出すと、部屋にあるデスクトップパソコンに差し込む。
そこから、今回使用するファイルを開くなど、この後にある用事のための準備をする。
「気がつけば、もう半年になるのか」
大量にあるファイルが、どれだけ活動しているか体感させる。
振り返ってみようかと思ったが、約束の時間になったらしく電話がなった。
「師匠ー、聞こえてますか?」
「聞こえてる聞こえてる」
電話の相手、そして僕のことを師匠と呼ぶのは、霧島陽太郎。
同じクラスメイトで男女問わず人気がある人物の1人だ。
陽太郎と通話をするのは、ある頼み事をされたからである。
「それでは師匠!今回も恋愛の指導をお願いします!」
いつものように、陽太郎は真剣な声で言ってくる。
僕が陽太郎から頼まれたこと、それは恋愛指導だった。
「はいはい、それじゃあいつも通り、ここ1週間のあった出来事から聞いていこうか」
僕がそう言うと、いつものように陽太郎はここ1週間であったことを話し始める。
そして、僕は内容を記載していく。
内容は、恋愛とは関係ないものが多く、誰と遊んだとか、グループワークの時に困っていたから助けたなど、日常的な内容である。
会話の内容だけだと、恋愛指導のイメージからは程遠いものであるが、陽太郎の恋愛においては身につけないといけない内容である。
そうして、一通り聞き終わると、どうしてその流れになったのかを聞いていく。
半年も続けていることもあって、陽太郎の返答はスムーズに行われる。
最初の方は、何も言えずにフリーズするのがいつものことだったので、成長を感じている。
流れを聞いた後は、まとめを聞く。
このような出来事から、〇〇さんはこういった話題に興味を持っているとか、よく話す人であるといった感じだ。
恋愛指導というよりかは、どっかのラノベにあった、陽キャになるための指導に近いことをしている。
やって見れば分かるが、相当な労力が必要となるため、これを考えて行動できている陽キャの皆さまは心の底から尊敬する。
そんな感じで、クラスの状況について感覚的ではなく、言葉で表現して体系的な形にしてもらった。
恋愛には関係ないことに思えるかもしれないが、改めて言おう、必要なことである。
そして、僕は現在のクラスの状況を踏まえて一つの質問をする。
「さて、陽太郎はここから山本さんと付き合うためにはどうすればいいと思う?」
僕がいった山本さんとは、クラスのリーダーである山本優里香のことである。
僕は陽太郎から頼まれたのだ。
「山本さんの方が好きで付き合いたいです。だから、恋愛相談をさせてください」
今でも思い出せる。
いつもとは違う真剣な表情で頭を下げてお願いしてくる陽太郎の姿を、そこにはいつもの可愛いといった感じはなく、漢を感じた。
ただ、最初は断った。
理由は簡単で、僕はそういったことをするタイプでもなければ、経験豊富でも無い。
出来ないことは無いが、ガチの重い方になってくるため、学生気分の軽いノリのやつに求められるものではない。
だから、「僕にあまり頼りにならないから、霧島君がよく話しているグループに聞いた方がいいと思うよ」といった感じで断った。
よく話しているグループとは、チャラい系グループのことである。
カラオケの趣味が合ったことから、陽太郎はチャラい系グループと付き合いがいい。
完全にグループのメンバーかというと、ノリが合わないところもあるので、そうでは無い。
準レギュラーといった感じの立ち位置だ。
チャラい系と言われるだけのことはあり、そっち方面の経験は豊かなメンバーが揃っている。
恋愛相談をするならば、比べることもなくチャラい系にした方がいい。陽太郎のことを気に入っていることもあり、真剣に聞いてくれるはずだ。
しかし、陽太郎はその事実を認めつつも僕である必要があると語った。
「確かにそうかもしれない。けど、俺はただ付き合いたい訳じゃないんだ。
山本さんの力になれる存在になりたい。
山本さんを守れるような存在になりたいんだ。
付き合って後悔させたくないんだ。
だから、クラスで一番真面目で。なんだかんだ広い場面で頼れる鈴木君にお願いしたいんだ」
一生懸命に考えてきたことも分かるし、そこまで親しく無い僕に頭を下げてお願いするほど必死であることもわかった。
だから引き受けた。
厳しく辛いものになることを条件にして。
そこからは、僕のことを勝手に師匠と呼び始め、恋愛相談だったのが恋愛指導に呼び方が変わる程度には陽太郎にとっては過酷な日々が続いた。
「力不足なところがあるかもしれませんが、山本さんが楽になるように、働きかけたいと思ってる。
具体的な方法については、考えついていないので、手探りで探していくことになると思う」
「働きかけたいと思った理由は?」
「いつもよりも山本さんがグループのメンバーに話しかける回数が多いように感じられたのと、どこか余裕がないように見えて、少しでも手助けになればと思って」
(気がつくか・・・・・・成長しているね)
陽太郎の言うとおり、今の山本さんはいつもよりも負荷が高い状況である。
それは白雪さんが関係してくる。
ここ二日間の色々と調べた結果、ほぼ間違いなく山本さんが白雪さんのサポートをしている。
あの出来事から、山本さんのグループ内での活動量が明確に増えていることや尾行されたことも、その考えが正しいことを後押しする。
しかし、殆どの人が気が付かない些細な変化に陽太郎が気がついたのは、本当に成長している。
これなら、もう少し踏み込んだお願い事をしても大丈夫そうだ。
「よく気がついたね。陽太郎の考えている通り、山本さんは、少し大変な状態だ」
「手伝ってほしいことがあるんだよね?」
「話が早くて助かる」
「師匠が理由も聞かずに認めるときは、説明不要の時か、大変な時ぐらいだからね。もう慣れたよ」
電話越しに陽太郎の苦笑いが聞こえる。
厳しめに対応しているので、致し方ないことである。普段は違うので問題ない。
「それで内容は?」
「二つある。一つは、男子グループ内で白雪さんの話題が出たら定例会議の時に報告してほしい。緊急性が高いものだったら即座に」
陽太郎は、男子グループの中では顔が広い上、チャラい系グループに強い繋がりがある。
だからこそ、情報の早めに受け取り可能性が高い。
「もう一つは、影響力を強めておいてほしい。もしもの時に、意見ができる程度には」
僕は裏でコソコソするタイプなので、みんなに言い聞かせるような強めの手段が取れない。
だからこそ、もしもの時に相手側にこちら側の意見を汲み取ってから提案してくれる人物がいると助かる。
人間、外側よりも内側の人の言葉を聞く。
山本さんの些細な変化を察知でき、クラス全体を見て判断できるようになりつつある陽太郎なら、この意味を正しく理解してこなす事ができるはずだ。
「情報収集と備えだよね、これを俺に頼むということは、白雪さん関係で山本さんと男子グループで揉めるかもしれないと祐希は考えているであってる?」
「あってる。これは免許皆伝の日は近いな。」
「免許皆伝をしても、目的が果たされるまでは定例会は続けるからね」
「あ、うん。分かった」
正直、免許皆伝レベルまで実力があれば、山本さんから十分認められる人物になっているはず。
あとは、チャラい系グループの分野だと思っていた。
「話を戻すが、ぶつかると言っても可能性は低い。だから、取り越し苦労になる可能性は高い」
「問題ないよ。誰かを守れる人は日頃から備えができる人でしょ?」
電話越しでもわかる。絶対にドヤ顔している。
「分かっているならいいよ。それと働きかける方のことだが、都合よく助けることができる機会が来ることを待つ方がいいと僕は思う」
「・・・・・・下手をして逆効果になることを避けたいから?」
「それがメイン。もう一つは、自分がどれだけ成長したか確かめるいい機会だと思ってる」
「なるほど」
出来ることが多くなれば、必然的に都合良く助けられる場面が増える。
以前にも同じことをしたため、その比較が出来るはずだ。
「それでは、今回の定例会議は終了ということで、お疲れ様」
「お疲れ」
そうして、定例会議は終わった僕は窓の外の月を見る。
(これでクラスでの異変は察知できるようになった。後はどうなるかだな)
うまく行けばいいなと思いながら今日が終わるのだった。




