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白雪葵は尋ねたい

 私は一度見た動きはほぼ完璧に真似することが出来る。そして、何度でも自由に再現できる。


 私は、淀みない動きで力むことなくボーリング玉を投げる。


 投げたボウリング玉は綺麗な直線を描きながら、先頭のピンにあたり、全てのピンを倒した。


「ス、ストライク。もうこれで5回連続!あおいたん強すぎるよーー!」


「里奈と一騎打ちだね」


「うーー、あおいたんみたいに安定しないんだよー私」


 私に並んで4回連続でストライクを決めている里奈は不満そうな表情をしながらボウリング玉を持つ。


「里奈、今日は調子がいい日だね。葵、負けるかもよ?」


 ストライクの応酬が行われていることで勝つことを諦めた観戦モードに入った優里香が聞いてくる。


「そうだね、場合によっては長引いちゃうかも」


「私たち3人しかいないから、門限のことは気にしないで、思う存分戦いなさいーー」


「うん、そうする!ありがとね」


 私達は3人でボウリング場に来ていた。


 本来ならば、いつものグループ全員でくる予定だったが、私達以外は用事があって来れないため、3人で来ている。


 まあ、優里香ちゃんが私たち以外は来れないことを知っていて誘ったのだから、こうなるのは当然だ。


 一見、無駄に思えるかもしれないけど、これは私のためだ。


 付き合いが悪いと、どうしてもグループ内での立場は悪くなる。


 家庭環境の事情で、私がみんなと遊べる機会は少ない。あるとしたら、学校が終わってから門限となるまでの時間のみで、必然的にグループでの立場は弱く1人でいることが多かった。


 しかし、優里香と関わり始めて変わった。


 優里香は、平日で門限もあって少ない時間しか遊べないにも関わらず、あの手この手を使って私がみんなと遊べるようにしてくれた。


 メンバーの予定を把握して来れないことがわかっていても誘うのも、工夫の一つだ。


 優里香曰く、こうすることで私のような用事があって遊べない子を増やすことができる。それによって強制的に参加率を下げて、私がいないことへの違和感を大幅になくせるらしい。


 事実、優里香と付き合いはじめてグループのみんなとの距離が自分だけ遠いと思うことがなくなったし、遊べないことに関するハードルがすごく下がった。


 他にも人数を少なくすることで、門限がある私が自然と帰れるように調整しやすくするなど、優里香は本当に色々なことを考えて行動してくれている。


 今の生活があるのも優里香のおかげであり、命の恩人と言っても等しい存在である。


「ねえ、優里香」


「何かあった?」


 パーフェクトゲームギリギリまでもつれ込んだボーリングが終わって、里奈が離席して2人きりになったので、気になっていることを聞いた。


「優里香から見て、鈴木くんってどんな人に見える?」


「・・・・・・葵がそんなことを聞いてくるなんて、そういえば席替えで隣の席になってたね」


 優里香は、少しの間をあけた後、自分の中でゆっくりと噛み砕くように語り始めた。


「前にも似たようなことがあったよね。確か、男子グループが女子の人気投票をした結果が漏れた時だったね」


「あはは・・・・・・そんなこともあったね」


 一年の終わりの時だったような気がする。


 色々あって、クラスの男子グループが行っていた女子の人気投票の結果がバレたことがあった。


 それなりに力を入れて実施していたらしく、クラスの男子のほぼ全員が参加していた。


「あの時は火消しで大変だった」


「あ、お疲れ様」


 私は苦笑いをする。極秘で行われたものであるために、必然的に燃えることになった。


「その時に、クラスの男子で唯一投票していなかったのが鈴木くんで、話題になったんだっけ」


「うん」


 男子グループのクラスラインにいなかったこと、存在感が薄かったこと、中立かつ堅実なタイプだった彼に誘える人物がいなかったことなど、色々あって鈴木くんだけが投票してなかった。


 最もガードの硬い男子でも、投票していたこともあり、一切情報が漏れない鈴木くんが少しだけ話題になった。


「あの時は関わりがなくて何も知らなかったから聞いたんだよね・・・・・・何か困り事がある感じ?」


「いや、全然。むしろ、色々と助けてもらっている。ただ、今までそう言ったタイプの人にあまり会わなかったから」


 ここ数日で鈴木君との接点が急激に増えたことで、私の中で鈴木くんの印象が目まぐるしく変わっている。


 事情が事情なため、頭の中で整理がつかないでいた。そのため、私の中で一番信頼をしている優里香の意見を求めた。


 優里香には珍しく、かなり考え込んでいる様子だった。


「鈴木くんについてだけど、かなり個人的な意見になるけどいいかな?」


「うん、いいよ」


「分かった」


 優里香は座り直して語り始める。


「葵と同じで私も鈴木くんは変わった人だと思う。


 鈴木くんがどういう人かになると、私もそんなに関わっていないから分からないけど、クラス視点で評価するなら、縁の下の力持ちかな。


 鈴木くんがいるとクラスのまとめ役とかやる時に、結構楽なんだよね」


「楽・・・・・・」


「鈴木くんは全体の動きを把握して動いてくれることが多いんだよ。


 特に指示が出しにくく、何をしているか把握がしずらい、中心グループから距離がある子達のサポートをしてくれるのがありがたいかな。


 鈴木くんがうまくサポートしてくれるから、こっちは適切にクラスの状況を知ることができるし、こっちの指示は細部までしっかりと届く。


 それだけでまとめる立場としてはとても助かるんだよね」


 クラスのまとめ役を務めることが多いため、実感がとても篭っていた。


「だから、私にとって鈴木くんは居てとても助かる人。


 いつも1人の印象が強いけど、クラスのことをよく見て理解している。


 それこそ、クラス全体の理解度だけで言うなら鈴木君が一番じゃないかな。」


(確かに)


 隣の席になったからこそ分かったが、鈴木くんの行動は効率化されていた。


 特に顕著なのが授業への準備だ。


 クラスメイトの動きを的確に把握して、最小限の労力で用意できるようにしている。


 それだけではなく各教科担当の仕事も把握しており、やり忘れがあると教えてあげたり手伝っている。


「堅苦しい意見になってごめんね。葵が聞きたかったのは、性格とかいい人なのかだったよね。」


「そんなことないよ、とても参考になった!ありがとう優里香」


 私視点では知ることが出来なかったことを知ることができるだけでも十分価値ががある。


「もう一つだけ聞いていい?」


「うん、大丈夫だよ」


「鈴木君は信用してもいい人かな」


 環境が悪かったこともあるが、私は人間関係には疎い方の人間だ。


 私から見て良いことだと思っても、実は悪いなんてことも十分ありえる。


「・・・・・・信用できるかは分からない。さっきも言ったけど深く関わっているわけじゃないからね」


 優里香は席を立って私の隣に座る。


「ただ、そういうのは行動で示すもので分かるものだと思う。


 どうして葵がそんなことを考えるのか分からないけど、葵には行動で判断してほしいと思ってるし、それで分からないことが私を頼ってほしい」


「・・・・・・うん、頼りにしているよ優里香」


「あーー、なんかいい雰囲気なってるー!」


 里奈は私たちを見ると嫉妬した表情をしてこちらにくる。


「何話していたの?」


「葵の気になる人についてだよ」


「なにそれー!!え、誰誰?」


 里奈は私の両肩を掴んで前後に揺らしてくる。


「里奈の考えるようなものじゃないから、揺らすのやめて」


「絶対嘘だーー!!教えてくれるまでやめないからー」


 本当なのだが、里奈は一切信じてくれなかった。


「気になる人は冗談だから、やめてあげて」


 私と里奈の様子をしばらく楽しそうに見ていた優里香がようやく止めに入った。


「そんなーー!騙すなんてひどいよ!」


「やっと終わった・・・・・・」


 私は少し疲れたように深く座り、里奈はオモチャを取られたかのように悲しむ。


「ムーーー、こうなったらゆりかたんが気になる人を言うまで抱きつくのをやめないから!」


 里奈は優里香に抱きつこうと襲うが、優里香は冷静に片手で頭を捕まえて止める。


「私は諦めないからねー!」


「はあ、まあ私が撒いた種だし、気になっている人はいないから、代わりに最近注目している人を教えるから鎮まれーー」


「・・・・・・仕方ない。それで許してあげよう。それで誰なの!?」


 私達の対面側に座った里奈は刑事を彷彿させる鋭い視線で聞いてくる。


霧島(きりしま)くん」


霧島陽太郎(きりしまようたろう)くんのことであってる?」


「うん、あってるよーーー」


 霧島という苗字は学校に数人いるので、一応確認した。


「小さくて可愛い子だよね!?えーーー、意外」


 霧島君は、同じクラスメイトで男子の中で一番身長が低い人で、童顔且つ母性をくすぐる純粋な性格から、一部でかなりの人気がある人だ。


「どんなところを注目してるのー?」


「周りを見て動いているところかな、今までは幼い感じがあったけど、ここ最近は周りを見て行動できるようになってきてるんだよね。」


「・・・・・・」


 里奈は渋い顔をしてこちらを見てきたので、私は苦笑いする。


「ゆりかたんは、仕事人だもんね。道は長い」


「言いたい放題だけど、里奈だって気になるひといないでしょ?」


「そ、それは・・・・・・」


 そうして始まった優里香の反撃に何も出来ずに、面白い表情をする里奈を見ながら友達と過ごす楽しい時間を過ごした。


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