第十話 席替え
「昨日は中々にスリリングな1日だった」
僕は、昨日のことを思い出してため息をつく。
白雪さんの緊張をほぐすためとは言え、自分の心のうちを話すのは、中々に思うところがある。
(変な風に思われてないといいけど)
一歩踏み込むのは、いつだって心の負担が大きい。
(もしかして、今日約束を断ったのも、ヤバいと思われたからじゃないよな・・・・・・)
今日も放課後どうするかの白雪さんに連絡をしたのだが、断られた。
(山本さんたちの先約があるからと言っていたけど、こういうことがあった後だと辛いな)
白雪さんにも友達付き合いがある。こちらばかりを優先できないことは理解しているし、しっかりとバランスをとって欲しいと思っている。
だから、断られても気にしなかったはずなのだが、昨日の件のせいでどうしても不安になってしまう。
そんなわけで、誰もいない教室で朝から後悔に包まれていると、珍しく担任が教室にやってくる。
「お、やっぱりいたか。いつも早くて偉いな」
「朝はゆっくりしたいからですよ。先生」
僕はゆっくりと頭をあげる。
「暇なので、手伝えることがあれば手伝います」
担任が朝早くくる時は、ほぼ確実に何かしらの準備をするためである。
「いつもありがとうな、それならクジを使ってくれないか?」
担任は、紙とハサミを僕に渡す。
「席替えですか・・・・・・」
「ああ、テストも終わったことだしな。嫌か?」
「まさか、結構楽しみにしてます」
正直言って、席なんてどこでもいいと思っているので、そんなに楽しみにはしていないのだが、素直に言って会話を持たせる自信もなかったので嘘をつく。
そんな感じで、担任と会話をしながら渡された紙をクラスの人数分に切り分けて、数字を記入していく。
ここのクラスの席替え方法は至ってシンプルで、席に数字を割り振り、クジで引いた数字の場所に移動する運ゲーである。
「できました」
「いつもありがとな!」
すでに何度かしている作業もあってすぐに終わり、席に戻る。
(席替えか、やり辛い相手にならないといいけど)
最近の授業はグループワークを主軸にしているものが多い。そのため、自分の周囲に誰が来るかは割りかし重要である。
希望を語るのであれば、英語をできる人物が周囲にいてほしい。
僕は多くのことを覚えると言ったことが苦手なことや、英語を扱う才能がないことも合わさり、毎回赤点ギリギリアウトぐらいのレベルで英語ができない。
そのため、英語に関しては何もできない役立たずである。そのため、当てられたらすると答えられなくて絶望するしかなくなる。
故に、英語の授業に関しては完全に存在を消そうとするが、英語担当の先生の方針は、全員一度は発言させる無慈悲なものであった。
ただ、救済処置としてグループで協力する形になっている。
そのため、グループ内に英語ができる人がいるかいないかは、僕にとって死活問題であった。
(あの先生、教材にはない問題を沢山出してくるから、事前に調べて答えを用意することもできないんだよな)
事前の準備を許さない、真の実力を試してくるタイプであることも、この問題をより深刻にしている。
席替えについて考えを巡らしていると、徐々に教室内にも人が増えてきた。
黒板には座席表が記載されていることから、席替えが行われることが分かるため、他のクラスメイトはその話で持ちきりである。
みんなの反応は様々で、喜ぶ者もいれば悲しむ者もいた。
「おーい、お前ら静かにしろー!朝会始めるぞ」
担任の一言で、クラスメイトは話をやめて各々の席に着席する。
そうして朝会は始まり、連絡事項などを伝え終わると、お楽しみの席替えの時間がやってきた。
担任がくじが入っている箱を持ち、一人一人くじを引いていく。
くじを引いたクラスメイトは、結果を見て一喜一憂する。
「あおいたんだけ遠いーー!そんなーー!ここでお別れなんて嫌だよー!」
「くじの結果だから仕方ないよ」
「ほらほら、早く移動するよ」
山本さんのところは、白雪さんだけ離れる結果になってしまったらしい。
まあ、3人一緒の場所になるなんて、低い確率なのだから仕方がないことだろう。
「ほら、最後の一枚」
先生が最後のくじを渡してくる。
僕が一番最後なので選ぶ楽しみなどは一切なく、淡々と受け取る。
「ありがとうございます」
(残り物には福があるというがどうだろうな)
そんなことを思いながら、数字を見ると窓際の一番後ろの席だった。
(一番後ろの端か、運がいい)
本当に福があったことに喜びながら、机を移動していく。
そして、気が付いた。
「白雪さん・・・・・・」
「鈴木くん・・・・・・」
僕の隣になる場所にいる白雪さんと目が会って、互いに一瞬だけフリーズする。
「これからよろしくお願いします。白雪さん」
「こちらこそ、よろしくお願いします。鈴木くん」
神のイタズラか何か知らないが、僕たちは初めて隣同士になるのであった。




