白雪葵の隠れ場所
「ここが目的の場所ですか?」
「はい、ここが今回の息抜きの場所です」
辿り着いたのは、平成初期を感じさせる小規模なデパートだった。
中に入ると、人はあまりおらず閑散としている。
「ここは、横には長くないですが地下一階から四階までと横に長い場所なんです」
鈴木くんは説明をしながらエレベーターがある場所に向かうので、私もついていく。
「一階は見ての通り、休憩場所など何もありませんが、地下一階には食品売り場があります。」
それを聞きながら、私たちは地下一階の食品売り場に向かう。
地下には、食品売り場のほかに、お肉屋さんやパン屋さんなど、小規模なフードコートもあった。
「小規模ですが、必要なものは全て揃っているのでかなり便利です」
「確かにそうですね」
パッと見ても最低限お菓子や惣菜など、見た目以上に欲しいものが揃っている。
そうして私達は一周して見て回ると、そのまま2階の方へと向かう。
「2階は、本屋と文房具店がメインの場所です。どちらも品揃えがよくて必要なものは大抵集めることができます」
鈴木くんの言う通り、よく使われておる文房具などは揃っている。
本屋の方もこのフロアの半分以上を占めていることもあって色々な本が揃っている。
「それでは3階にいきましょう」
鈴木くんにエスコートに従って3階に向かう。
「3階は、衣服やゲームセンターがあります。ゲームセンターの方は、今でも楽しめます。衣服の方は、最低限はあると思います。あまり詳しくないので、実際どうなのか分かりませんが」
私も衣服やゲームセンターに詳しくないので鈴木くんよりも内容が薄い感想しか出てこない。
こういったことは、優里香ちゃんや里奈ちゃんの方がずっと詳しい。
あまり見る場所がなかったので、そのまま四階へと向かう。
「四階は、ラーメン屋やたこ焼き屋などのフードコーナーと100均があります」
フードコーナーは、中規模程度のパーキングエリアにありそうなもので、100均はいつも通りと言った感じだった。
「白雪さん、ついてきてください」
鈴木くんに言われた通りについていく。そうしてたどり着いたのは、フードコートの窓際にある席たった。
鈴木くんが席に座るので、私も反対側に座る。
「白雪さんからして、ここはどうですか?昨日と比べてワクワクできるところはあまりありませんが」
鈴木くんの言葉に、私は振り返り少し考える。
「確かに私が興味を引くようなものはありませんでしたが、落ち着いていてホッとできて、私はいい場所だと思います。」
私達が楽しめるようなものは殆どないが、その代わりになんとも言えない静かさがあって落ち着ける場所だった。
人の少なさもあって、自分の部屋にいる時の雰囲気に近い。
「そう思ってくれるなら、ここに連れてきてよかったです。」
私の意見を聞いて、鈴木くんはホッとした表情を浮かべる。
「私が白雪さんをここに連れてきたのは、もしもの場合の隠れ家として使ってもらいたいと思ったからです」
「隠れ家ですか・・・・・・」
そのような発想がないため、すぐにはイメージできなかった。
「1人でいたいなと思うことや、誰にも知らずに何かしたいなと思ったことはありませんか?」
「・・・・・・あんまり考えたことがなかったので、そのよく分かりません。」
自由になりたいとは考えたことはあるが、その後どうしようとは考えたこともなかった。
お母様に管理されてきた私に、自由な時間は殆どない。門限だって、友達付き合いを学ぶ為の時間をしっかりと区切るためにできたものだ。
「・・・・・・なるほど。なら、記憶の片隅に覚えておく程度で構いません。1人になりたいと思った時などにこの場所があったと」
「・・・・・・はい。わかりました」
今はまだ、使わないかもしれないけど、お母様から離れて自由になった時使うかもしれないと思った。
「では、話題を切り替えて、ここから見る景色はどうですか?」
鈴木君に入れれて私は、窓から広がる景色を見る。
四階からということもあって、街並みが一望できて時間帯も夕暮れ時ということもあって、黄金色に輝いていた。
(こんなところがあったんだ)
親の方針もあって、行動範囲が狭かった私において、この光景が真新しく見えた。
だからだろうか、ついつい見入ってしまう。
「もっと知りたいな」
もっと多くの世界を知りたいと思った。
あの監獄のような場所から解放された気がするから。
「知れますよ。そう遠くないうちに」
「鈴木くん!?」
光景に見入ってしまい、鈴木くんの存在を忘れてしまった。
ありえない失態に、頭がパニックになる。
(え、え、え、何やってるの私、どうしてこんなことに)
「予想以上にこの光景を気に入ってもらったようで、僕もとても嬉しいです。だから、特に気にする必要はありませんよ」
屈託のない笑顔で語る鈴木くんを見て、私も落ち着きを取り戻す。
(私、鈴木くんの前で失敗ばかりしてる・・・・・・)
昨日も今日も、普通ではありえないミスばかりしてしまっている。
恥ずかしさで死んでしまいそうだ。
「今日、僕は結構緊張していたんですよ」
鈴木くんはバツが悪そうな表情をしながら話し始める。
「道中にも言いましたが、僕はこう言った経験はほとんどありません。だから・・・・・・そのですね。ここを紹介するのかなり不安だったですよ。若者向けとは言いづらい場所ですから」
鈴木くんの言う通り、ここは私達のような高校生が来るには退屈な場所だ。
「あ、この人ダメだなとか、センスないなーとか、つまらないなーとか、不安で不安で。これでも徹夜で考えてきたんですよ?
まあ、徹夜で考えてこの程度なんですが」
苦笑いをしながら赤裸々に自分の中にあった不安を話していく鈴木くん。
「勿論、若者向けみたいなところに、行こうとは考えたんですよ?
だけど、自分はそんなテンションが高いタイプではないし、背伸びしたら必ず失敗するタイプなんで、結局はこう言った場所になってしまいました。」
次々と明かされる心の声は、冷静沈着ですごい人のイメージを崩壊させる。
本当の鈴木くんは、そんなすごい人物ではなかった。あれこれ必死に考え、馬鹿にされないかと不安に思いなって、慎重に動く、普通の人だった。
その事実が、彼への親近感と警戒心をゆっくりと沸かせ溶かしていく。
「まあ、色々言いましたが、僕が何が言いたいかと言いますと、この場所を良いと言ってくれて、この景色を楽しそうに見てくれたことに、臆病でビビリな僕はとても嬉しかったんです」
その言葉を聞いて、どこかほっとする私がいた。
「それと、僕は失敗とかに関しては人より寛大で理解があると思ってます。だって、臆病な僕は人一倍失敗することを怖いと思ってますし、失敗した時の辛さを分かっていますから。
だから・・・・・・その、もっと気楽に過ごしてくれると嬉しいです」
今までとは違い、ぎこちない笑顔を向ける鈴木くん。
「・・・・・・ありがとう」
どのように言えばいいのか分からなかった。だから、お礼の一言しか、今の私には返せなかった。
「さて、真面目系な話はここまでにしましょう。もうそろそろ帰らないと門限に間に合わなくなってしまいます。」
「そうだね」
気が付けば時間がそれなりに経っていた。
今までになく時間が過ぎるのが一瞬だと思った。
そうして私たちは一緒に帰った。
その足取りは、昨日よりも軽かったことを私はよく覚えている。




