白雪葵の納得と挑戦
私は隣で歩く鈴木くんをチラッと見る。
(鈴木君、こういう事に慣れてるのかな?)
自然な形で車道側に立ち、私の歩く速度にそっと合わせながら、会話などで目的地までのルートをさりげなく教えることで、隣で歩きながらもどうやって向かえばいいのか、迷わないようにしてくれている。
その手際の良さは、普段からそういったことをしていると思わせる。
「こういうこと・・・・・・慣れているんですか?」
(何言ってるの私!?)
気が付けば聞いていた。
その事実に、驚愕と恥ずかしさを感じながらも、再度チラッと鈴木君を見て、どう答えるのか気になる。
鈴木君は、苦笑いを浮かべると答える。
「こういうことには慣れてはいませんよ。ただ、厳しい両親と我儘な弟や妹がいまして、そこで鍛えられた力が、ここで活かされているだけですよ」
私は一人っ子なので、後半はよく分からないが厳しい両親というところは、私のところでも同じなため、どのようにして身につけたのか想像しやすかった。
「そうなんですね。鈴木君も色々と苦労しているんですね」
私のところほど厳しくはないだろうが、高い水準での対応から見て、鈴木くんのところもそれなりに厳しいところなのだろう。
「苦労はしていますね。ただ、嫌ではないですね」
「嫌ではない?」
鈴木君が言っていることがすんなりと理解ができず聞き返す。
私は正直言って嫌だった。
私のためにやっていることは理解はしているが、帰る時間も勉強量も拘束される。
私はもっと友達と遊びたいし、もっと自由に生きたい。
「はい。勿論嫌だなと思うところはありますよ。自分の時間を拘束されますし、やりたくないことをやらされることもあります。
ただ、どれも納得してからやることにしているので嫌ではありません」
「納得ですか・・・・・・あまりイメージができません。鈴木君はどう納得しているのですか?」
私は鈴木君に聞き返す。
鈴木くんの言った納得を知ることができれば何かが変わるような気がするから。
「どう納得しているかと言われると、説明が難しいですが、一言でいうなら自分の中で損ではないと思えることを大切にしてますね」
「損ではない?」
「はい、例えば妹の買い物に荷物持ちとして手伝ってほしいと言われたとします。
この時の、僕が考える損は、僕のことをあまり考えないのでそれなりに疲れること。
自分のやりたいことをやる時間が奪われることなどがあります。」
鈴木君は分かりやすく二本指を立てて二つあることを表現する。
「次に、損に対して得られるメリットを考えます。
最初に日頃の恩返しができます。
次に兄としての矜持が守られます。
他には、このような時の対応力や体力が鍛えられます。
それらのメリットが損を上回るのであれば、自分の中で良いことになるので、納得して受け入れると言った感じですね。」
「なるほど・・・・・・」
鈴木くんの納得するということはわかった。
しかし、私の中の蟠りは溶けない。
だから、解けなかった理由を鈴木くんに疑問として聞いた。
「色々考えた結果、納得できない。損が上回った場合はどうするんですか?」
どう考えても、私は今の現状に納得はできなかった。だから、そんな時にどうすればいいのか聞いた。
「色々あります。断るのも一つの選択肢です。ただ、僕はお互いが納得できるように話し合うことが大切だと思いますよ。」
「話し合うですか・・・・・・」
「最初から互いが納得できるものは少ないです。
誰だって、他の人のことを完璧に分かるわけでも、どうすれば最善なんて分かるわけがないですから。
だからこそ、自分の意見を出して、相手の意見を聞き、互いに間違ったところは受け入れ良いものにしていくことが大切だと僕は思ってます。
一回で決めないといけないなんて、どこにもないですからね」
鈴木くんの意見は、大人の考え方だと思った。
多分、鈴木くんが考えが正しいのだと思う。
私もお母様と話し合って、互いの納得できる生活を・・・・・・
「できるのかな・・・・・・」
また、無意識に言葉にしていた。
しかし、そうなってしまうほどに、私にはお母様と話し合える光景が見えなかった。
「できるか、できないかは白雪さん次第だと僕は思いますよ」
「鈴木くん・・・・・・」
どうしようもなく不安な声だった。
私はそんな気休めな言葉は欲しくなかった。
しかし、この時の私は鈴木くんを分かっていなかった。どうして、多くの人が鈴木くんを頼るのか。
それは、彼が気休めの言葉をかけるだけではないからだ。
「白雪さん、世の中諦めなければ意外となんとかなることが多いんですよ。
白雪さんが抱えている問題は、僕たち外部の人では解決できません。だからこそ、白雪さんができないと思ったら解決できません。
しかし、僕たちは白雪さんの手助けはできます。白雪さん1人だけではどうにもならないことも、誰か協力したらどうにかなるかもしれません。
白雪さんは1人ではありません。白雪さんが助けを求めれば、協力してくれる人がいます。
助けを求めて、1人ではできなかったことを出来るようにする。簡単なことではありませんが、諦めずに積み重ねていけば、解決できないと思っている問題もきっと解決できると思いますよ」
「・・・・・・やり方が分かりません」
ちょっと投げやりに鈴木くんに聞く。
鈴木くんの言っていることは理解はできるけど、鈴木くんが言っている通り簡単にはできない。
そんな投げやりの質問でも、鈴木くんは淀むことなく答える。
「白雪さんが信用している人に助けてほしいと言ってみるものいいですし、この機会を利用するのもいいと思いますよ。」
「この機会というのは、この息抜きのことですか?」
「そうです。僕を使って息抜きをしてみる。それで1人では出来ない、いいことがあるなら一歩前進です!」
先程に話に比べてなんとも小さな前進の話を、鈴木くんは満面な笑みで自信を持って言った。
壮大な話が急に等身大の話になって気が抜ける。
だからだろうが、先程まだあった緊張感が抜けて身体が軽くなった気がする。
「まあ、とにかくですね。小さなことからやっていきましょう。余裕は大切ですよ!」
先程までの論理的な説得ではなく、ノリと勢いで押し切ろうとしてくる鈴木くん。
どうしてなのか分からないが、先ほどまでのクールぽさがなくなって、子供らしい反応をしている鈴木くんが少し可愛く見える。
「そうですね」
全てが分かったわけではないが、少し試してみるのもいいかもしれないと思いつつ、私達は目的の場所に辿り着く。




