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転生したベテラン冒険者はセカンドライフを謳歌する  作者: リズ
第四章 鍛治師の街【ハイスヴァルム】編
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第95話 酒と師匠と

 月が見下ろす夜空の下、昔話を肴に果実酒を飲むルーキスたち。


 深酔いしないよう、魔法でアルコールを分解しながら飲む酒は転生したルーキスには少し苦く感じられた。


「そう言えば、お二人に子供がいると」


「妾たちは人間に紛れて暮らし、その歴史ももう随分と長い。世界の調停者として神に創られ幾星霜、妾は人間に近付き過ぎた。お主を弟子として育て、死んだあとに寂しいと感じてしまうほどにはな」


「君は僕たちにとって子供みたいなものだったからね。心に空いた穴を塞ぐために実子を産んだ、それだけさ」


「初めての育児は大変だったが、お主の子孫に手伝ってもらってな、人間のように自ら育てた我が子は今や一国の主としてなんら恥ずかしくない成長を遂げておる。一度会いに来てやってくれると妾たちも嬉しい」


「分かりました。いつか必ず」


「お主の子孫の話は聞かんのか?」


「先生方の役に立ったのでしょう? なら今も私の、ベルグリントの子孫たちは栄えていると思いますので」


「そうだね。君の子孫が、今は君の故郷に出来たコロシアムで王者として君臨してるよ」


「コロシアム?」


「闘技場の事じゃよ。数万人は収容できる大規模な、な」


「数万人⁉︎ イヤイヤ、私の住んでいたロテアは小さな村ですよ? そんな大規模な施設作ったところで誰が行くんです?」


「二百年あれば人間はそれだけ発展する。知らんようだから教えてやるが、今やお主が生まれたロテアはこの国レヴァンタールと並ぶ大国になっておるぞ? 冒険者の聖地ロテアを中心に広がった冒険者の国。王は、さっき言ったお主の子孫じゃ」


 口に酒を含みながらクラティアの話を聞いていたルーキスが、あまりにも衝撃的な話を聞いて思わず酒を口から噴き出した。

 目を丸くして、開いた口から少量の酒が漏れ出ている。


「クハ! はっはっは! 良い顔じゃ! その顔が見たかったんじゃ! ヒッヒッヒ、見ろミナス! この間抜け面を!」


「や、やめろよティア。クク、笑いすぎだぞ」


 などと言いながら、ミナスの肩も震えている。

 前世の頃から冷静で、普段あまり狼狽えたりしなかった弟子のあまりの狼狽えようが二人にはツボだったようだ。


 笑う二人に恥ずかしくなり、口に付いた酒を服の袖で拭ったルーキスは、咳払いをして「あの、今の話は」と顔を赤くしながら真相を聞こうとした。


「ああいや、嘘ではないぞ? 妾の国やレヴァンタールとは友好関係にある。武王としてお主の子孫は立派に国を治めておるよ」


「いやほんと、二百年で何が」


「ロテアの周辺は魔物が多かっただろ? 中には強力な龍種もいた。それを倒すために君は僕たちに師事し、成長した君はそれら強力な魔物たちを倒し尽くした。結果ロテア周辺に住んでいた人間だけでなく、エルフや獣人、ドワーフなんかの亜人種も助けたわけだけど」


「ロテアにな、お主が助けた異種族が移り住んだんじゃよ。お主が死んだあと、お主の功績を後の世に残すため、子々孫々忘れないようにとな」


「私は、ただ自分の故郷を守りたいがために戦ったのですが」


「それが結果、助けた異種族からは英雄的な行動に見えたってだけさ」


「この世界の調停者、バランサーとしては悩んだのだぞ? 人類が発展し過ぎると世界が滅びかねんからな。そうなれば妾たちは魔物を率いて人類を間引かなければならなくなる。しかしまあ、この二百年での人類の技術力の発展はそこまで見受けられなかったんでな。しばらくは見送りじゃ」


「それは、なんというか。ありがとうございます」


「妾とて人類やそれと連なる異種族たちと敵対などしとうないのじゃ。まあお父様とお母様。ああいや、神とこの惑星(ほし)が創り出している魔物達が今はまだその役割を担っておるから問題はないがな」


「それでも昔、異世界から引き入れた転移者や転生者の影響で技術力が進み過ぎた事はあったけどね」


「少しの技術革新を求めてのことだったのだろうなあ。その尻拭いで妾が生み出され、当時の人類を七割ほど殺して文明を滅ぼす事になったが」


「古代人魔大戦でしたか、前世で聞いた時は度肝を抜かれましたが」


「妾を危険だと思うかい?」


「いやまあ。危険かどうかで言われたらそりゃあ危険でしょう? かつての魔王なんですから」


「クハハ! それもそうじゃな。とはいえこの世界の文明が発展し過ぎて崩壊に向かわない以上、妾は何もせんよ。愉快に暮らすだけさ」


「そうして下さい。私はお二人とは戦いたくはありませんので」


 言いながら、ルーキスの額に汗が滲んだ。

 並んで酒を口に運ぶ師匠二人が本気で敵に回った時のことを考えたのだ。

 

「さて、ルーキス。お主はそろそろ眠るがよい。風が出てきた、体を壊すぞ?」


「そうですね。そろそろ私は寝ます。その前にもう一つ聞いて良いですか?」

 

「なんじゃ?」


「シルヴィアの、フィリスのことです。アレは私の動揺を誘うための言葉だったのでしょうか」

 

「違うわたわけ。あの娘っ子は間違いなくシルヴィアの生まれ変わりじゃ。妾があの娘の魂を見間違えるはずなかろう。せっかく再会出来たのじゃ、先にも言ったが、二人で末永く幸せに暮らすがよい」


「そう、ですか。ありがとうございます先生」


 席を立ち、グラスをテーブルに置いたルーキスは深々と二人に頭を下げた。

 そして、踵を返して二人の元を去ろうとするが、そんなルーキスの背中に向かって、クラティアが思い出したように「あ、そうじゃそうじゃ」と声を掛ける。


「明日の昼、お主らと手合わせがしたい。今日は結局壁をぶち抜いて馬鹿を処しただけじゃからな。運動不足なのじゃ」


「山登りましたよね?」


 肩越しに振り返り、苦笑いを浮かべながら答えたルーキスの脳裏を過ぎる前世での修行時代の日々。


 地獄のような日々を思い出したが故に「逃げるか」と、屋敷からフィリスとイロハを連れて逃げる算段を思いつけるだけ考えるがそのどれもが最終的にクラティアに防がれるのは目に見えていた。


「逃げても良いぞ? それはそれで一興じゃ。その時は鬼ごっこといこう」


「吸血鬼の女王様と鬼ごっこなんて笑えませんよ。分かりました明日目覚めたら二人に伝えます」


「ふっふっふ。楽しみにしておるぞ〜」


 肩越しに見えたクラティアの意地の悪い笑顔に、ルーキスは肩を落とすと歩き出した。

 そして、フィリスとイロハの魔力を頼りに屋敷の廊下を歩いて、寝ていた部屋に戻っていったのだった。

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