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転生したベテラン冒険者はセカンドライフを謳歌する  作者: リズ
第一章 転生と出会い、そして始まり
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第8話 食事の味はなんの味?

「そちらが今日から貴方、ルーキスさんのギルドカードになります。カード入れを無償で配布していますので、こちらにカードを入れて大事に保管なさって下さい。紛失した場合は別途料金が掛かりますので注意してくださいね」


 この受付の女性の言葉を聞いたあと、ルーキスは台座に置かれた半透明のギルドカードを手に取った。


 氏名と年齢だけが書かれたそのカードの表と裏を交互に見て、渡された黒革のカードケースにカードを入れるとルーキスはズボンのベルトを通す穴にカードケースの紐を金具で取り付けポケットの中に入れる。


(ガラス、とは違う手触りだったな。軽くて丈夫な、どっちかというと固まった樹脂に近いか。昔は鉄で出来たタグだったけど、細かなところは変わってるんだなあ)


 そんな事を考えるが、ルーキスは次第に待ち焦がれた冒険者になれた喜びからその表情を崩して微笑んだ。


 ルーキスの嬉しそうな表情に、受付の女性も釣られて微笑み、直後ある事を思い出して受付の女性は「ルーキスさん」と、目の前の少年を呼ぶと一枚の書類を受付カウンターの上に置く。


「これで今日からルーキスさんは冒険者になります。ランク別の詳細や昇格方法をこちらにまとめて記していますので、暇な時にでも読んでくださいね」


「ありがとう。あとで読んでおきます」


 言いながらルーキスは書類を受け取ると、振り返ってフィリスに声を掛けようとするが、そこに彼女の姿は無く。


 帰ったのかな? と思いながら首を傾げるが、グゥと腹の虫が鳴いたので「腹減ったな。どこかで晩飯にするか」と呟いて歩き出すと、ギルドに到着した時よりは人が少なくなった正面の受付に並んでいる冒険者達の隙間から、フィリスがヒョコっと姿を表した。


「あ。登録終わった?」


「おかげさまで終わった。ありがとうな、案内助かったよ」


「こっちは命を助けられてるからね。まだ恩返しはし足りないくらいだわ。まだ時間あるよね? 夕食、一緒に食べない?」


「お。良いねえ。腹減ってたんだよ」


「ついて来て。混む前に食堂に行きましょ」


 フィリスが手招きしたあと背を向け歩き出したので、ルーキスはフィリスの後ろをついて歩く。

 向かったのはギルド内にある酒場を兼ねた食堂で、正面玄関から見て左手の壁に設置された扉の向こうにあった。


 常に開かれている食堂への扉をくぐり、二人は奥へと進んでいく。

 中には既にまばらではあるが冒険者パーティ数組がそれぞれのテーブルで食事や酒盛りを始めていた。


 二人掛けのテーブル、四人掛けのテーブル、六人掛けの大テーブルが順番に並んでいる間を抜け、ルーキス達が向かったのは二人掛けのテーブルだ。


「そう言えば、さっきはどこへ?」


 バックパックを床に置き、外套を椅子の背もたれに掛けると、椅子に座りながら、ルーキスがフィリスに聞いた。


「今日の依頼についてちょっと相談にね。貴方のおかげで依頼自体は達成扱いになったけど、私としては納得いかなかったからさ。アイツらは逃げたわけだし」


「真面目だな。気にすんなよ、生き残ったもん勝ちだろ、冒険者は」


「まあ、それはそうだけど」

 

「納得いかんなら報酬は逃げた奴と等分して、パーティを抜けて別のパーティに参加した方が良い。あんまり他所のパーティに口出したくは無いが、逃げた奴、裏切った奴への不信感は消えないからな。そんな奴らとパーティ組んでても遅かれ早かれパーティは瓦解するぞ?」


「ふふ。今日冒険者になった人が随分と知ったような口を聞くのね。……なんてね。貴方の言う通りになりそうだとは私も思ってる」


 そんな話をしていると、ギルドの制服よりはどちらかと言うとメイドの様な意匠の給仕服を着たウェイトレスが水とメニューを持って来た。


 そのメニューをフィリスに渡し、ルーキスは「おすすめ一つ」とウェイトレスに向かってニコッと笑う。

 それに続くように、フィリスも「私もそれで」とウェイトレスに言うとメニューを返して、ウェイトレスが立ち去ったテーブルに頬杖を付いてため息を吐く。


「ねえ。あなたいっつもそんな感じなの?」


「ん?」


「受付のお姉さんや、さっきのウェイトレスさんに笑って愛想良くしてさ」


「そりゃオメェさん。仏頂面よりは笑顔の方が相手もやり易いだろう?」


「まあ、それはそうだけど」


 自分以外の女性にルーキスが笑顔を向ける事に、何故かモヤっとした感情を抱いたフィリスは、そんな感情を振り払うように首を振ってテーブルに置かれた水を一杯口に運んだ。


 木で出来たコップがゴツんとテーブルにぶつかり、中の氷がコトンと揺れる。


「ねえ。なんで冒険者を目指したの?」


「ん〜? なんでって言われてもなあ」


「あ、ごめん! ちょっと待って、人の事情に土足で踏み込むなんてダメだよね。忘れて」


「別に構わねえよ。ご大層な理由があるわけじゃないんだからな。で、まあ、その理由ってのが、世界中を巡るのに冒険者って職業は何かと都合が良いってだけなわけでな。旅先で路銀が尽きそうになれば依頼を受ければ良いし、気になったダンジョンに入る時、冒険者なら護衛無しで最下層まで潜れるし」


「世界を巡る、か。凄いね」


「そうか? そうかもな。魔物達が跋扈(ばっこ)する世界を巡る。ちょっと普通の思考じゃねえわな」


 フィリスの言葉に自嘲気味に笑い、ルーキスも水を口に運んだ。

 

 頼んだ料理はまだ来ない。


 客足が増え、テーブルが埋まっていくと、次第に食堂に冒険者達の騒ぎ声が大きくなっていく。

 その声に負けないように、フィリスは口を開き、ルーキスが語った夢の礼にと自分が冒険者になった理由を話し始めた。


「私のお爺ちゃんが冒険者だったのは言ったでしょ? 死んじゃってるって」


「飯前に重い話か? あとでなら聞いてやるぞ?」


「大丈夫。そんなに重い話じゃないから。お爺ちゃん、ダンジョンの奥で死んだってお婆ちゃんから聞いたんだけど、遺品がないの。回収出来なかったらしくて」


「あ〜。最下層の主の間で亡くなってるなら確かに回収は難しいかもなあ」


「それでね、その遺品を回収したくて冒険者になったの。大好きだったお爺ちゃんの剣でも盾でも鎧の一部でも良いから、地上に、お婆ちゃんのお墓に持って行ってあげたい。それが私が冒険者になった理由。でも、どこのダンジョンか、お婆ちゃん教えてくれなくて。それで」


 そこまで話した丁度その時、ウェイトレスが食事を二人分トレーに乗せてやって来た。

 その対応に二人は話を中断するが、ルーキスは食事を口に運ぶ前に「それで?」と、フィリスに聞き直す。


「それで。わ、笑わないでよ? まあ、それで、この国にあるダンジョンをしらみ潰しで攻略したくて、冒険者になったの」


「へえ、そりゃあ良い。君も俺と同じで随分とぶっ飛んだ思考してるなお嬢さん」


 馬鹿げた理由だと笑われるかと思いながらも、自分の夢を今日初めて会った少年に話したフィリスだったが、ルーキスはその夢に対し、馬鹿にするように声を上げて笑う事はなく、どちらかと言うと関心した様子で優しく微笑んだ。


 そんなルーキスの笑顔にフィリスは顔を赤くする。

 

 その後、ルーキスは初めて味わうギルドの食事を思う存分堪能したが、フィリスはと言うとルーキスと同じ食事をしたはずが、何故か料理の味では無く、ルーキスの事しか考えられなくなっていた。

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