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転生したベテラン冒険者はセカンドライフを謳歌する  作者: リズ
第四章 鍛治師の街【ハイスヴァルム】編
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第86話 ハイスヴァルムの鍛冶屋にて

「さっきの子、昨日すれ違ったわよね? イロハちゃんくらいの歳で雨避け使ってた子でしょ? 知り合い?」


「あ、ああ。いや、そういうわけじゃ、ないんだけどな」


「お兄ちゃん、顔色が悪いです」


 アイスクリーム屋の屋台から離れ、鍛冶屋へ向かっている間。ルーキスはチラッと後ろを振り返ったりしながら道を歩いていた。

 かつての師匠がまたいつの間にやら後ろにいるのではないかと気が気でなかったのだ。


「あの二人、吸血鬼だよ。それも高位のな」


「え? いやいや、ホントに? 太陽に当たって平気な吸血鬼なんて」


「そういう弱点めいた伝承は、生物として格上の存在に対してせめてこうあって欲しい、こんな弱点があってほしいっていう思いから人間が広めた噂話だ。本物の吸血鬼に、そんな弱点はない。格下のレッサーヴァンパイアはそうでも無いけどな」


 大きく息を吸い込み、深呼吸したあと、誰に聞かれているわけでもないのに、ルーキスはいつもより小声で話し始めた。

 

「じゃあ銀の杭で心臓を突いたら死ぬっていうのも?」


「それは俺たちも死ぬだろ?」


「まあそれはそうだけど。あなたって本当に色々と詳しいわね」


 フィリスの言葉に「本人に聞いたからな」とは言えず、苦笑いを浮かべると「まあな」と続け、冷や汗を滲ませながら歩き続けた。


 探知魔法を使って師匠の位置を探ろうかとも考えたが、それをすれば変に勘繰られることはまちがいないし、何よりも、もし既に気取られているなら、あの二人は尾行などせずに真正面に現れる。

 

 そう考えたルーキスは、現状、怪しまれてはいるかも知れないが、追われてはいないと判断し、探知魔法は使用せず「今は用事を済ませてしまおう」と、当初の目的通りに紹介された鍛冶屋に向かった。


 住宅地から少し離れ、住人たちから鍛冶屋通りと呼ばれている赤茶色のレンガ造りの街並みに差し掛かり、ルーキスたちは街を割るように流れる川を眺めながら歩いていく。


「ここかな?」


「緑色の屋根って言ってたわね。じゃあここじゃない? 周りに緑色の屋根の店ってここしか無いし」


「リスタ武具店、って書いてます」


「リスタ武具店? どこかで聞いたな」


 店の前に出ている看板を読み上げたイロハの横で顎に手を当て、聞き覚えのある店の名前を思い出そうとするルーキス。

 その真横、ルーキス耳を貫通せんばかりの声量で、フィリスが「あ!」と声を上げた。


「ほらルーキス! プエルタの!」


「声でっか。プエルタの? あ〜! このハルバード買った店の名前か!」


 ルーキスが故郷を出て最初に立ち寄った街。

 フィリスと出会い、冒険者になった街。

 この旅の出発点となった始まりの街、プエルタ。

 そのプエルタで初めて手に入れた武器が愛用してきたハルバードだった。


 世界は広いが世間は狭いというやつか、無関係では無いのだろう、リスタ武具店と書かれた看板と、安売りと書かれた張り紙が貼られ、剣やら槍やら斧やらが適当に突っ込まれた樽の間を通り、ルーキスは店の扉に手を掛けた。


 扉を開き、店内に足を踏み入れるルーキスたち。

 そのルーキスたちを年若く見えるエルフの少女が迎えた。


「リスタ武具店にようこそ〜。何かお求めですか?」

 

 金糸のような綺麗な髪を後頭部あたりでまとめたエルフの少女が、受付カウンターの向こうに退屈そうに座っていた。

 ツナギを着ているあたり、プエルタの武具店と同じく、このエルフの少女が武具を製作している職人のようだ。


「おんなじ顔ね」


「双子か? いや、単純に姉妹かもな」


 プエルタで世話になったリスタと瓜二つのその少女の顔を見てルーキスとフィリスが思考を巡らせていると「あれ? もしかして妹の知り合い?」と少女の方から声をかけてきた。


 どうやらルーキスの予想は当たったようだ。


「ミリーナ・リスタです。リリアを知ってる感じですか?」


「初めまして。縁あってこのハルバードを妹さんから買いました。ちょっと無茶してしまって、修理をお願いしに来たんですが」


 プエルタで購入し、ここまで共に歩んできたひん曲げてしまった相棒を、ルーキスは受付カウンターに近付いて置いた。


 その曲がったハルバードを、ミリーナは眉をしかめて柄の終端から調べていく。

 そして刃の根元に刻印されている花の意匠と、製作者である妹の名を見つけると懐かしそうに微笑んだ。


「ちゃんと仕事してるのねえ。腕も格段に上がってる。それをこうも曲げちゃうなんて、刃もボロボロだし、何をどうしたのかしら?」


「ああ〜。えっとですねえ」


 ミリーナに聞かれ、ルーキスはこれまでの戦いを振り返るように、相棒のハルバードで屠ってきた敵の事を話して聞かせた。

 その話を聞いて、ミリーナはどこか満足気だ。


「腕の良い冒険者に使ってもらったのね。それでいて、妹の作った武器でもアナタの力には耐えられなかったか」


「申し訳ない。俺が未熟なばっかりに」


「謙遜がお上手ね。本当に未熟な冒険者がハルバードを曲げられるわけないでしょう?」


 妹であるリリアよりは随分とおっとりしている姉のミリーナの言葉に苦笑して、ルーキスは頬を掻く。

 そんなルーキスを後ろから見ていたフィリスが、機嫌悪そうに不貞腐れた表情を浮かべると、ルーキスの横に立ってルーキスの脇腹を肘で突いた。


「ぐお。なんだよ。ヤキモチか?」


「そうよ。何よデレデレしちゃって」


「してないだろ。変な誤解するなって」


「あらあら」


 ルーキスとフィリスのやり取りを見て、ミリーナは口に手を当てると微笑んだ。

 

「連れが申し訳ない。それで、修理なんですけど」


「妹の作った武器。快く引き受けさせていただきます。ついでに補強もしましょうか? 少しお値段掛かりますけど」


「そうですね。お願いします」


「ではこちらお預かりしますね。それまでは、そうですねえ」


 そう言って、ミリーナは受付カウンターから出てくると、店内の壁に掛かっているハルバードの所へ行って「これかな? いや、こっちの方が良いかしら?」と選び始めた。

 どうやら貸してくれるらしい。


「こちらでしたら使用感が似てると思いますが、どうかしら?」


 ミリーナが持ってきたハルバードを受け取り、出来れば振り回したいが、そういうわけにもいかず、ルーキスは握り心地だけを確かめていくが、その重量感や、重量のバランスは確かに相棒に似ているように感じた。


「良い感じです。お借りします」


「存分に振るってください。壊れても弁償しろとは言いませんので」


「気を付けます」


 ミリーナの言葉に苦笑して、ルーキスはハルバードを受け取った。

 その横から、今度はフィリスがすっかり愛用になっていた蛮刀をミリーナが戻った受付カウンターの上に置く。


「こちらも修理ですか?」


「いえ。改造、打ち直しって出来ますか?」


「ええまあ。可能ですけど」


「コレ、ダンジョンボス討伐報酬なんですけど、デザインが。使いにくいって訳じゃないんだけど。デザインが嫌なの! 山賊みたいで」


「ああ〜。まあ確かに」


 言いながら、ミリーナは蛮刀を手に持ち刃や柄の手触りを確かめていく。

 その眼光は鋭く、まさに職人の眼差しと言えた。

 

「どんな形状がお好みかしら?」


「普通のショートソードみたいなので良いんですけど」


「刀身に厚みがあるからちょっと幅広にはなりますが、分かりました。やってみましょう」


「ありがとうございます!」


「打ち直しとなると。そうねえ、修理と合わせるとお値段はこんなところかしら」


 そう言って、ミリーナは受付カウンターに一枚紙を置くと、そこにスライムの体液から作られたインクを付けた羽ペンで合計の値段を書いてフィリスに渡す。


 それを見て「ゔ」とカエルを踏んだような声を上げて固まるフィリス。

 そんなフィリスの横からルーキスは見積書に書かれた合計金額を見て「おーなかなかだなあ」と笑った。


「あの、やめます」


「別に良いじゃないか。せっかくなんだし、打ち直してもらえよ」


「いや、でも。旅費が無くなっちゃうし」


「稼げば良い。俺たちは冒険者なんだから」


「ルーキス〜」


 フィリスに向かってニコッと笑うルーキスに、フィリスは申し訳なさそうに眉をひそめる。


 そんな二人を見て、ミリーナはイロハに向かって「お兄さんとお姉さん、仲良しで良いわね」と笑い掛けた。

 そんなミリーナに「二人は仲良しなのです」とイロハは我が事のように、誇らしげに膨らみの無い胸を張るのだった。

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