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転生したベテラン冒険者はセカンドライフを謳歌する  作者: リズ
第四章 鍛治師の街【ハイスヴァルム】編
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第84話 鍛治師の街で

 雨模様の空の下、早朝に宿場町を出発したルーキスたちはその日の夕暮れ時には目的地である鍛治師の街、ハイスヴァルムに到着した。


 霊峰セメンテリオを背に、扇状に広がるその街は、この国の軍隊であるレヴァンタール軍の武器防具製造の重要拠点でもある。


 教会を中心にした巨大な結界の存在や、弧を描くように建造された壁。駐留軍の存在。そして冒険者が多く訪れる事から、過去に勃発した戦時にはその防衛力から近隣諸国から難攻不落と称された。


 そんな街なものだから、もちろん他の街より警備が厳しいのか、ルーキスたちは雨の中、街に繋がる門の外で長い列に並ばされていた。


「なに? 検問?」


「雰囲気は良くないな。随分と殺気立ってるというか」


「なにか事件でもあったのかしら」


「それを未然に防ぐための検問か、既に起こったからの検問か。まあ俺たちは真っ当な冒険者だし問題ないだろ」


 などと話していると列が進んでいき、ルーキスたちの番になった。

 切り出された石で造られたアーチ状の門構えの下、ルーキスたちに向かって、全身に兜以外の鎧を装着した黒髪の青年が腰の剣の柄に手を乗せて近付いてきた。


「すまない。雨避けの魔法を解除してくれないかい?」


「おっと失礼。いま解除します」


 分厚い門構えの下だ。雨は当たらない。

 ルーキスが魔法を解除すると、鎧を装着した駐留軍の二十代半ばくらいに見える黒髪の門番の青年は剣の柄から手を放してルーキスたち三人に近寄った。


「すまない。警戒態勢でね。何か身分証はあるかい? 商人、には見えないな。冒険者ならギルドカードを見せてもらいたいんだが」


「ギルドカードならあります。三人とも冒険者です。何かあったんですか?」


「俺も末端なんでね。詳しくは聞かされてないんだが、なんでも要人が来訪しているらしくてね。それにしても君たちよく似てるねえ親子? いや、兄妹かい? 家族で冒険者を? あれ? でもカードに書かれてる名前は違うな」


 青年に聞かれて「いや、家族じゃないです」と答えることが何故か嫌だと思い「今はまだ家族じゃないんですよ」と笑ったルーキスの後ろでフィリスが顔を真っ赤にして、イロハは嬉しそうに微笑んだ。


 その様子に軍人にしては柔和そうな青年は「仲良さそうだな。羨ましいねえ」と苦笑する。


「要人って誰なんです?」


「さてね。それは分からんし、知っていたら知っていたで上から教えるなって口止めされるだろうな」


「まあ確かに。それもそうですね」


「ギルドカードありがとう。通っていいぜ。ハイスヴァルムにようこそ。この大通りを真っ直ぐ進んで、三つ目の十字路を右に曲がれば宿がある。良い夜を、若い冒険者諸君」


「ありがとうございます。門番お疲れ様です」


 こうして無事、ルーキスたちは門番の青年に胸に拳を当てるレヴァンタール軍式の敬礼をするとハイスヴァルムへと足を踏み入れた。

 再び雨避けの魔法を発動し、三人寄り添いルーキスたちは教えてもらった宿の場所を目指して歩き慣れない街を進んでいく。


「ま、まだ家族じゃないってなによ」


「あ? さてね。そんなこと言ったか?」


「お兄ちゃん、照れてますよね?」


「う〜ん? まあ、ちょっとな」


 門番の青年とルーキスのやり取りを茶化す、というよりは言質をとってやろうというくらいの考えでフィリスが後ろからルーキスの肩をつついた。


 それをルーキスは、はぐらかそうとするが、イロハにまで聞かれてしまってはと、ルーキスは照れながら頬を人差しで搔く。


「ルーキスが照れてる」


「やめろやめろ。からかうな」


 そんな話をしながら光る魔石が入った街灯に照らされた大通り横の歩道を歩いていると、ルーキスたちの正面から雨避けの魔法を発動して、こちらに向かってくるイロハくらいの年頃の少年少女が見えた。


 二人とも金髪で鍛治師の街と呼ばれる場所には不釣り合いなほど異様な光景だった。

 

 華奢な少年は綺麗なシャツとズボンに子供用の黒いコート。

 少女はシャツと丈の短いスカートの上から紅いコートを着用し、首元には紅い宝石が一つ嵌め込まれた首飾りを付けている。


 その二人が門番から聞いた要人の子供なのか、はたまたこの街を治める貴族の子供かは分からなかったが、ぶつかる事を避けようとして、横に逸れたルーキスたち。


 その少年少女の顔を見て、ルーキスだけが顔色を変えた。

 何か懐かしいものを見たような、それでいて見たくなかった幽霊でも見たような感覚に、ルーキスは顔をしかめた。


(なんでこの街にいる⁉︎ 門番が言っていた要人ってあなた方の事かよ。どうする? 声を掛けるか? いや、声掛けてどうするんだ。今の俺は全くの別人だぞ)


 目の前まで来たところで、良く知っている魔力波形から、やっとルーキスは少年少女の正体に気が付いた。

 古い知り合いだ。

 それこそ過去世で何年も何年も鍛えられた。


「し」


 師匠。と言いかけて、ルーキスは口を噤んで一息吸って気持ちを落ち着かせながら、あえて何も言わずに少年少女の横を通り過ぎた。

 

「だから妾は言ったのじゃ、ちゃんと首を落とせと」


「僕のせいじゃなくないか? まさか人間を盾にして逃げるとは思わないじゃん?」


「甘いの〜。我が夫は」


 小さな声だった。

 それこそ雨音で消え入りそうなほど。

 久しぶりに師匠たちの声が聞きたくて、聴力を強化していたルーキスでなければ聞こえなかっただろう。


(物騒な会話をしておられるなあ)


 そんな事を思いながら、少年少女の横を通り過ぎ、数歩ほど歩いた時だった。


 ルーキスの喉を、幅広の剣の刃が貫通した。


 そう思えるほどの殺気を感じたのだ。


「なんじゃ。人違いか。姿形も魔力波形も全く違うな。というか、彼奴はとっくに死んでおったか」


「どうした? 早く行こうよ。僕おなか減ったんだけど」


「ああ。すまんすまん。殺気を感じる事も出来ん凡夫を弟子と勘違いしたみたいじゃ」


「あのさあ。まあ良いや」


 少女からの殺気に耐え、ルーキスは顔面蒼白で歩き続けた。

 先頭を歩いていなければ、フィリスとイロハにはさぞ心配をかけただろう。


(首、付いてるな。はあ〜。死んだと思った。こっわ〜)


 平静を装いながら歩き、目的地近くの十字路を曲がったあたりでルーキスは滝のように額から流れる油汗を拭い、首をさすって自分の無事を確かめる。

 それほどハッキリと少女からの殺気をルーキスは感じたのだ。


(目前に来るまで魔力も気配も察知出来んとはなあ)


 フィリスとイロハと談笑しつつ、すれ違った師匠たちの事を思い出す。

 会いたかったような、会いたくなかったような二人。

 これ以上関わりませんように、と祈りつつ、それでもなぜだろうか、ルーキスは二人と再び出会うのだろうなと確信めいた思いを抱いていた。


(それにしても。広い世界の中にある広い国の広い街で知人と再会するとは。これも貴方の与えてくださった力のおかげなんですかねえ)


 ルーキスはそんな事を思いながら宿の看板を見るフリをして天を仰いだ。

 しかし、空は曇天。

 神様どころか星一つすらルーキスには見えなかった。

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