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転生したベテラン冒険者はセカンドライフを謳歌する  作者: リズ
第四章 鍛治師の街【ハイスヴァルム】編
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第79話 噂話と嫌な話

 朝起きて、キャラバンのみんなと食事をしていた時の事。

 昨夜イロハと腕相撲をした獣人冒険者がルーキスの隣に腰を下ろした。


「南に行くんだって?」


「ええ。先日攻略したダンジョンで武器を傷めてしまいましてね。どうせ新調するなら鍛治職人の街として有名なハイスヴァルムでという事で」


「ハイスヴァルムの職人は腕利きが多いからな。良い買い物が出来ると良いな。しかしまあ南に行くなら誘いの森は気を付けて通るんだぞ? 最近霊種の魔物が頻繁に出没するからな。俺たちは大所帯で中には神聖魔法を取得しているやつもいたから問題は無かったが」


「誘いの森、ですか。わかりました。ご忠告ありがとうございます」


「あと、これは噂で聞いた話なんだが、規律を破ったレッサーヴァンパイアを処刑する為に吸血鬼の女王が今この国に来ているらしい。まあ本当かどうかはわからんがね」


「吸血鬼の女王。クラティア・クリスタロスがこの国に」


「あくまで噂だ。旦那と一緒に無駄に人を殺したレッサーヴァンパイアを探してレヴァンタールを捜索がてらに漫遊してるってな」


「ま、まあ噂ですよね」


「噂だよ噂。仮に本当だったとしても関わる事なんかねえさ」


 朝食がてらに雑談し、ルーキスたちは南へ、キャラバンは北へと向かっていった。

 交友を深めた面々と手を振りあって別れ、ルーキスたちは街道を進んでいく。


 しかし、珍しくルーキスの表情は暗い。

 暗いというより何か難しい顔をしている。 


「どうしたの? お腹でも壊した?」


「いや。飯食ってる時に聞いた話が気になってな」


「ああ〜。誘いの森の幽霊の話? 確かに気になるかも。私幽霊嫌いなのよねえ」


「ああいや。俺が気になってるのは吸血鬼の話の方なんだが」

 

「いやいや。あの話は噂話でしょ? 吸血鬼の女王、クラティア様と言えば一国の主。そんな有名人が直接末端の眷属の処刑に来るわけないわ」


「いや。あの人は暇人だからな。末端だろうが気に食わなければ自分で処分を下すために動くんだよ」


「なによ? クラティア様を知ってるような口ぶりね」


「ああいやまあ。本に書いてあった」


 かつての師匠だからよく知ってる。とは言えず。

 ルーキスは師匠とその師匠に振り回されがちな師匠の旦那の困り顔を思い出して苦笑いを浮かべた。

 

 しかしあくまで噂話。

 仮にこの国を師匠が訪れていたとして、偶然出会う事などまあ無いだろうと結論付けて、ルーキスは首を振って師匠のドヤ顔を脳裏から振り払う。


 そして三人は南へ南へと歩き続けた。

 時折遭遇する魔物を倒したり、出会った草食の四足歩行の温厚な竜に草をやり、魔法の鍛練も行いながら歩いていく。

 一日歩き、夜はルーキスの結界魔法の中で寝て。

 次の日の昼頃。

 丘を登ると遥か向こうに高い岩山が見えた。

 山の麓の平野は荒涼としていて草木は少ない。

 しかし、その手前には森が広がり、丘を下ってしばらく歩いた場所には街道沿って宿場町が縦長の菱形状に広がっている。


「あの森が誘いの森か?」


「どうなんだろう。見た目にはわかんないわね」


「でも。なんだか嫌な感じはします」


「ちょ、ちょっとイロハちゃん。そんな事言わないでよ」


「あ。ごめんなさいお姉ちゃん」


「なんだフィリス。怖いのか?」


「幽霊は怖いもんでしょうが」


「幽霊型の魔物は魔法が使えりゃなにも怖くはないよ。上位の死神、グリムリーパーなんかは単純に強くて怖いがね」


「図鑑では見たことあるけど。絶対会いたくない魔物ね」


「ダンジョンを巡るとなると、いつかは戦うかも知れないけどな」


 ルーキスの言葉に顔を青くし、身震いしながらフィリスはルーキスの横を歩く。

 そんなフィリスの手にイロハが自分の手を伸ばして握った。


「大丈夫ですお姉ちゃん。何かあったらわたしが頑張ってお姉ちゃんを守ります」


「大丈夫。大丈夫よイロハちゃん。お姉ちゃんだって戦えるわ」


「声が震えてるぞ?」


「う、うるさいわね。大丈夫って言ったら大丈夫よ」


 とはいえ今から宿場町を越えて森に向かうには微妙な時間だ。

 森は広大。平野に抜けるまでに夜が来るのは確実。

 夜の森を歩いて道を外れ、遭難するリスクを考えれば、今日は宿場町で一泊して明日の朝から森に入る方が安全だ。

 というわけで、ルーキスたちは宿場町まで歩き、宿を探す。


「人は多いが」


「ちょっと活気が無いわね」


「あっち見てください。馬車がいっぱい止まってます」


「あ〜。こりゃあいよいよ森で何か起こってるみたいだなあ」


 街の中央を分断する街道の先。

 止まっている数台の馬車や竜車を指差しながらイロハが言っていると、引き返してきたのか森の方から来たのか、一台の馬車がゆっくりと向かって来た。

 護衛だろうか、冒険者らしき装備に身を包んだ数人が同行しているが、皆揃って顔色が悪い。

 それこそ顔面蒼白で、その中の一人などは涙を流している。


「失礼。何かあったのですか?」


「ちょっとルーキス。空気読みなさいよ」


「そうしたいのは山々だが。俺たちは明日森に行くんだ。情報は欲しい」


 横をトボトボ歩いて通過しようとした一団に、ルーキスが声を掛けたので、フィリスが止めるが、ルーキスの反論に一理ある以上、フィリスはそれ以上なにも言えなかった。


「私たち。今日この町を出たんだけど」


 ルーキスの言葉に、反応してくれた冒険者の女性が立ち止まり、話をしてくれた。

 どうやら森を進んでいると、霧に視界を奪われ、その霧の中から死に別れた仲間や元恋人、家族が現れて道を阻んだのだそうだ。

 霊種の魔物の幻影魔法か何かだとは理解出来ても、かつての仲間や恋人、家族に刃を向けたり魔法を撃つ事が出来ず、撤退してきたらしい。


「よくある話だ。よくある話だが。気に食わんな。人の心を抉る類の話は」


 情報を得たルーキスたちは宿を目指して歩いていた。

 しかし、珍しくルーキスの機嫌が悪い。

 ルーキスだけではない。

 フィリスもイロハも、ルーキスと同じく不機嫌そうにルーキスの言葉に頷いていた。

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